ちきゅう

地球深部探査船「ちきゅう」

「ちきゅう」は、海洋研究開発機構（JAMSTEC）の地球深部探査センター（CDEX）が運用する、世界でも有数の深海掘削船です。その名の通り、地球の深部を探ることを目的として建造され、巨大地震・津波の発生メカニズムの解明、地下に広がる生命圏の解明、地球環境変動の解明、そして人類未踏のマントルへの到達という壮大な目標を掲げています。船名の「ちきゅう」は、一般公募によって選ばれました。

来歴

深海掘削は、地球科学研究における重要な手法の一つです。海底は地殻が薄く、地球内部の情報を得るのに適した場所とされています。1960年代初頭にアメリカが開始したモホール計画を皮切りに、深海掘削計画は国際的な協力の下で発展してきました。

1980年代後半、日本の科学技術庁は、21世紀の地球科学研究の発展を見据え、深海掘削の重要性を認識しました。当時、国際的な深海掘削計画（ODP）で利用されていた掘削船は、ライザーレス掘削にしか対応しておらず、より深く掘削するための技術的な限界がありました。この課題を解決するため、新型の掘削船の開発が計画され、1990年にJAMSTECにおいて新たな深海掘削システムの開発が開始されました。

1992年から1994年にかけて、設計や要素技術の研究開発が進められ、ライザー掘削システムを導入した技術計画が作成されました。その後、1999年から基本設計が開始され、2000年には三菱重工業と三井造船との間で建造契約が締結されました。2001年に政府予算が承認され、三井造船玉野事業所で起工、本船が建造されました。

設計

「ちきゅう」の船型は凹甲板型で、船体前方には大きな箱型の上部構造物が配されています。上甲板上7層、下1層の甲板に船橋と居住区画が設けられており、上端には大型ヘリコプターが離着陸できるヘリコプター甲板があります。乗組員は1ヶ月ごとに交代し、長期間の船上生活を強いられる研究者のために、居住区の多くは1人個室となっています。また、外国人研究者のために、茶室も設けられています。

船体中央部には、高さ約120メートルにも及ぶ巨大なデリック（掘削やぐら）がそびえ立っており、「ちきゅう」の象徴的な特徴となっています。このデリックは日本国内にある橋よりも高いため、入港できる港が限られています。

主機関にはディーゼル・エレクトリック方式が採用されており、複数のディーゼルエンジンが発電機を動かし、推進力や船内の電力供給を行っています。推進器としては、船首部にサイドスラスター1基とアジマススラスター3基、船尾部にアジマススラスター3基が装備されています。掘削作業中は、自動船位保持システム（DPS）によって、風速や波浪などの影響を受けながらも、精密な位置を維持することができます。

装備

掘削用設備

「ちきゅう」の最大の特徴は、ライザー掘削システムを搭載していることです。これは、石油プラットフォームなどで広く用いられてきた技術ですが、科学掘削船としては世界初の採用例です。ライザー掘削システムでは、ドリルパイプがライザーと呼ばれる中空のパイプの中を通って海底まで到達します。ドリルパイプの先端からは、泥水が噴出され、掘削孔の壁面を安定させ、削りかすを回収することができます。ライザーは、水深2,500mでの掘削では約90本が繋ぎ合わされ、ドリルパイプは直径140mm、長さ9.5メートルの高強度鋼管で、先端に掘削刃がついたドリルビットが取り付けられています。「ちきゅう」は、地底下7,500メートルまで掘削する能力を有しており、マントル物質や巨大地震発生域の試料採取を可能にしています。

船上研究区画

「ちきゅう」の船上には、掘削した試料を分析するための研究区画が設けられています。ラボ・ルーフデッキ、コア・プロセッシングデッキ、ラボ・ストリートデッキ、ラボ・マネージメントデッキの4つのデッキで構成され、総床面積は約2,300m2です。ここでは、X線コンピュータ[[断層撮影]]（CT）装置や磁気シールド・ルームなど、高度な分析装置が利用されています。特に、磁気シールド・ルームは、地球磁場の影響を極力排除し、精度の高い地磁気測定を可能にします。

主要運用史

「ちきゅう」は、2005年の竣工以来、世界各地の深海で掘削調査を実施してきました。主な成果としては、南海トラフ地震発生帯における津波断層の発見、東日本大震災の発生メカニズム解明のための海底掘削、世界記録を更新する深海底掘削、メタンハイドレートからの天然ガス産出成功などが挙げられます。また、その活躍は映画『日本沈没』の撮影にも協力しました。2011年には、東日本大震災に見舞われ、八戸港に停泊中、津波から避難するために一時沖合に待避するなどの出来事もありました。

主な成果

「ちきゅう」は、数々の世界記録を樹立しています。2012年には、東日本大震災のメカニズム解明のため、海面からの深さ7,740mに到達し、世界記録を更新しました。また、2013年には、メタンハイドレートからの天然ガス産出を世界で初めて成功させました。2018年には、紀伊半島沖での掘削で、科学掘削の世界最深記録（海底下3,262.5m）を更新しました。これらの成果は、地球科学の分野に大きな貢献をしています。

その他

「ちきゅう」は、その卓越した性能と実績から、様々な分野で注目を集めています。海洋研究開発機構とゲーム『スプラトゥーン2』とのコラボ企画では、ゲーム内に登場するほか、フェスイベントのイラストにも描かれるなど、科学分野以外にも影響力を持っています。

「ちきゅう」は、現在も深海掘削の最前線で活躍しており、地球の謎を解き明かすための重要な役割を担っています。

関連項目

日本海洋掘削
第一深海丸
ボーリング
JOIDES・リゾリューション
グローマー・チャレンジャー
コラ半島超深度掘削坑

外部リンク

船舶の情報と現在位置 - MarineTraffic.com
統合国際深海掘削計画（IODP）
日本地球掘削科学コンソーシアム
地球発見
海洋研究開発機構 地球深部探査センター
CHIKYU 地球深部探査船「ちきゅう」 (@Chikyu_JAMSTEC) - X（旧Twitter）
* メタンハイドレート採取作業にあたる探査船「ちきゅう」 - YouTube

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