ウワミズザクラ(上溝桜)
バラ科ウワミズザクラ属に分類される落
葉性の
高木です。
学名は Padus grayana とされ、ハハカ、コンゴウザクラ、アンニンゴ、ウワミゾといった別名でも知られています。
一般的な
サクラのイメージとは異なり、小さな白い
花がブラシのように房状に多数咲くのが最大の特徴です。
名前の由来
和名の「ウワミズザクラ」は、
古代に行われた亀の甲羅を使った占いである「
亀卜(きぼく)」で、亀甲とともに使用された「波波迦(ははか)」という、上面に溝が彫られた板に由来すると言われています。
サクラに似た
葉を持つことから「上溝桜」という漢字があてられ、現在の読み方に
転訛したとされています。
中国では「灰
葉稠李(かいようちゅうり)」と呼ばれています。
分布と生育環境
ウワミズザクラは、日本の
北海道南西部、
本州、
四国、
九州に加え、
中国の
湖北省、
四川省、広西チワン族自治区に自然分布しています。日本では主に低地から山地にかけて見られ、特に日当たりの良い谷間や沢沿い、
小川のほとり、
雑木林の中など、湿り気のある環境を好んで生育します。
形態
樹高は最大で約20
メートルに達する落
葉広
葉樹です。
樹皮は若い木では暗紫色を帯びており、
イヌザクラよりも黒っぽい印象です。特徴的な横長の皮目が多数見られます。老木になると
樹皮は茶色みを増し、縦方向にひび割れて網目状の模様を呈するようになります。
樹皮を傷つけると、
桜餅のような独特の
クマリンの香りがします。
葉は枝に互い違いに付く互生で、長さ5~12
センチメートル、幅3~5
センチメートルの卵形から卵状長楕円形をしています。
葉の先端は急に細くなり、縁には鋭い鋸歯があります。
葉柄は1
センチメートルほどと短く、他の
サクラ類に見られる
葉柄の
蜜腺は目立ちません。秋には黄色から明るい橙色へと鮮やかに黄
葉します。
花期は4月から6月にかけてで、
葉が芽吹いて展開した後に開
花します。その年に伸びた枝の先から、長さ6~10
センチメートルほどの
総状花序が垂れ下がり、多数の白い5弁
花が密集して咲きます。特に多数の雄蕊が目立ち、全体がブラシのように見えます。
果実は
花が終わった後の9月頃に熟します。直径約6~7
ミリメートルの卵円形の
核果で、最初は緑色ですが、夏から秋にかけて熟していくにつれて黄色、橙色、赤色と変化し、最終的に黒色になります。
冬芽は、秋に落ちた側枝の痕の横に側芽として互生し、こぶが突き出ているような姿が特徴的です。落ちた枝の痕は茶褐色の円形です。枝の先端には仮頂芽が形成されます。冬芽の形は卵形や円錐状です。
葉が落ちた痕(
葉痕)は半円形や三角形をしており、
維管束の痕が3個見られます。
類似種との見分け方
ウワミズザクラにはいくつかの似た植物があります。特に
イヌザクラ、シウリザクラ、エゾノウワミズザクラなどが挙げられます。
ウワミズザクラは、
花の穂である
総状花序の
下に葉が付くこと、
葉の付け根近くに腺があること、
花柱が雄蕊よりも長いこと、
花弁が雄蕊よりも短いことなどが特徴です。
これに対し、
イヌザクラは
総状花序の
下に葉が付かないことで簡単に見分けることができます。シウリザクラは
総状花序の下に
葉が付きますが、その
葉の形が
心形である点が異なります。また、エゾノウワミズザクラは
総状花序の下に
円形の葉が付き、
花弁が雄蕊よりも長いという違いがあります。
利用
庭木としても植栽されることがあります。材は軽くて粘り強いため、建材のほか、彫刻や版木、道具の柄など様々な用途に利用されます。
樹皮は伝統的な桜皮細工にも用いられます。
食用としては、初夏に採れる緑色の未熟な
果実や、春の若芽、蕾、
花が利用されます。ただし、
果実の種子(核)や未熟な部分には青酸配糖体の一種である
プルナシンが含まれているため、食用にする際は十分に加熱したり、あく抜き、塩漬けといった適切な処理を行い、有害成分を分解させる必要があります。
果実、蕾、
花は通常、穂ごと摘み取って採取します。特に、香りの良い若い
花穂と未熟な実を塩漬けにしたものは「杏仁子(あんにんご)」と呼ばれ、
新潟県や
東北地方の一部で古くから食用とされています。塩漬けにする際、未熟果は生のまま漬け込みますが、
花や蕾はさっと湯通ししてから漬けるのが一般的です。その他、若芽、蕾、
花は熱湯でさっと茹でて冷水に取り、
三杯酢で和えたり、
和え物、
煮びたしなどにして食されます。若芽は天ぷらにしても美味しくいただけます。
また、完熟前の赤い
果実は
果実酒の材料として人気があります。ただし、完全に黒く熟した実は苦味があるため、
果実酒には適さないという意見もあります。
果実酒を作る際は、
果実の3倍程度の
ホワイトリカーと
グラニュー糖と一緒に漬け込みます。最低でも3ヶ月以上の熟成期間が必要で、半年から1年ほどで実を引き上げると良いでしょう。完成した
果実酒は美しい琥珀色で、ウワミズザクラ特有の香りが楽しめます。