シュリーナガル

シュリーナガルは、インド北部、ジャンムー・カシミール連邦直轄領の夏季における主都です。この都市は、インダス川の支流であるジェルム川の両岸に位置し、カシミール渓谷の中心を成しています。美しい湖とそこに浮かぶハウスボートは、シュリーナガルを象徴する風景の一つです。また、この地はカシミール地方に伝わる伝統的な手工芸品やドライフルーツでも有名です。デリーからは北へ約876kmの距離に位置し、シュリーナガル地区の首府でもあります。2011年の調査では、人口は約119万人と報告されています。

歴史的に見ると、シュリーナガルはカシミール紛争という複雑な背景を持っています。インドとパキスタンの分離独立以来、この地域は係争地の一部となっており、住民の大多数はイスラム教徒です。日本では、英語表記の「Srinagar」をカタカナ読みした「スリナガル」や「スリーナガル」という表記も用いられています。

シュリーナガルの歴史は古く、約2000年以上前にプラヴァラセーナ2世によって創建されたと伝えられています。紀元前3世紀にはマウリヤ朝の一部となり、アショカ王が仏教をこの地域に伝えました。1世紀にはクシャーナ朝の支配下に入り、仏教文化がさらに強化されました。その後、ヒンドゥー教徒と仏教徒の統治が14世紀まで続きましたが、イスラム教勢力の侵略によってイスラム教徒の支配下となりました。

ムガル帝国時代には、アクバルによってその版図に組み込まれました。1707年のアウラングゼーブの死後、パシュトゥーン人が侵入し、一時的に支配しましたが、1814年にはランジート・シングによってカシミール渓谷が併合され、シク教徒の影響下となりました。1846年には、イギリスがラホール条約によってこの地の宗主権を手に入れ、グラーブ・シングを藩王として任命し、シュリーナガルは藩王国の首都となりました。

インド・パキスタン分離独立後、パキスタン軍の支援を受けたパシュトゥーン人勢力が、シュリーナガルを含むカシミール地方を支配しようと試みました。しかし、当時の統治者ハリ・シングがインドへの帰属を決定し、インド軍がこの地域に進駐しました。この出来事が、第一次印パ戦争の引き金となりました。インドとパキスタンの対立は国際連合の場にも持ち込まれましたが、停戦が成立したものの、一部地域はパキスタンの実効支配下にあります。シュリーナガルは、その後インドの支配下に置かれています。

1990年代には、市内で発生した暴動や、ハズラトバル・モスクの包囲事件など、多くの衝突が起こりました。2019年には、インド政府がジャンムー・カシミール州の特別自治権を剥奪し、シュリーナガル市内では集会が禁止されるなど、緊張が高まりました。2023年には、G20観光相会合がこの地で開催されましたが、中国や一部のイスラム教国は政府代表団を派遣しませんでした。

シュリーナガルの地理的特徴として、カシミール渓谷の中に位置しており、ヒマラヤ山脈によってラダックと隔てられ、ピール・パンジャル山脈によって北インドの大草原から切り離されています。市街中心には、ダル湖とニギン湖という美しい湖があります。

気候は、標高1,600mということもあり、夏は温暖で涼しいですが、冬は寒冷です。特に12月から2月にかけては降雪が見られ、近隣のグルマルグはスキーリゾートとして有名です。

シュリーナガルの産業は、カシミールの伝統産業である絨毯、織物、カシミア糸の製造、販売が盛んです。しかし、2014年の豪雨災害で大きな被害を受けました。また、かつては避暑地として栄え、豪華なハウスボートが人気でしたが、カシミール紛争の影響で観光客は激減しています。テロも頻発しており、2006年にはシュリーナガルに向かうバスが手榴弾で攻撃される事件も発生しました。

このように、シュリーナガルは歴史、地理、文化、そして紛争という複雑な要素が絡み合った都市です。その美しさと歴史的背景は、多くの人々を魅了し続けています。

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