ストーンサークル

ストーンサークルとは

ストーンサークルとは、石を環状に配置した古代の遺跡を指します。環状列石、環状石籬とも呼ばれます。世界各地に存在し、その形態や目的は様々です。

世界のストーンサークル

イギリスには、ストーンヘンジをはじめとする巨石を用いたストーンサークルが数多く存在します。また、印欧語族トカラ語派に関連するアファナシェヴォ文化では、ストーンサークルを伴う墓が見られます。アフリカのセネガンビアの環状列石は世界遺産に登録されており、8世紀から12世紀にかけての配石墓であることが発掘調査で明らかになっています。

日本のストーンサークル

日本では、縄文時代中期後半から後期にかけて、主に東北地方から北海道にかけての東日本で多く造られました。日本考古学界では「環状列石」と呼ばれることが一般的です。日本で最初に報告されたストーンサークルは、1886年に動物学者の渡瀬荘三郎によって報告された北海道小樽市の忍路環状列石です。

構造

同時代の環状列石は、直径30～40メートル程度の環状に石を配置した遺構です。大きなものでは直径30メートル以上、小さなものでは10メートル以下のものがあります。大きなものは祭祀の場として、小さなものは竪穴建物の周囲に石を置いたものが多いです。最も古いと考えられているのは、長野県諏訪郡原村の阿久遺跡で、縄文時代前期のものと推定されています。

環状列石の構造は、外側に2重・3重に川原石を並べた「外帯」と、その中心にある「内帯」で構成されることが多いです。「内帯」の内側には、直径5メートル内外の方形または円形の広場があります。これらの配石の下には墓穴があったり、石列の間に土器棺が置かれていることがあります。また、環になっている石の一部が途切れ、幅2～3メートルの通路が設けられていることが多いです。

成立過程

秋田県鹿角市の大湯環状列石の発掘調査から、中心に小さな環状の石組遺構、その外側に一回り大きな環状の石組遺構があり、さらにその外側に掘立柱建物群、竪穴建物や貯蔵穴群が環状に配置された同心円構造をなしていることが判明しました。これらのことから、環状列石は、縄文時代前期から後期にかけて東日本を中心に隆盛した環状集落を起源とし、その中心となる広場（墓地）に日時計的機能を持つ石組遺構が造られるようになったと考えられています。

考古学者の佐々木藤雄は、環状集落から環状列石が成立する過程を、居住域と墓域の区別が鮮明化し、中央広場が祭祀の場としての性格を強めた結果と捉えています。また、谷口康浩は、縄文中期段階では環状集落構造の一部であった中央広場の集団墓が、後期以降、列石という視覚的な誇張を伴って巨大な祭祀モニュメントとして拡大していった背景に、社会階層化を伴う縄文時代社会の構造変化があったと指摘しています。

東北地方のストーンサークル

大湯環状列石（秋田県鹿角市）

国の特別史跡に指定され、世界遺産にも登録されている大湯環状列石は、野中堂環状列石と万座環状列石の2つの大きなストーンサークルで構成されています。万座環状列石は日本最大のストーンサークルです。周囲には建物跡があり、近くの一本木後ロ遺跡が墓であることが判明していることから、大湯環状列石も墓群とそれに付随する祭祀の場であると推測されています。また、日時計状組石があり、夏至の日に太陽が沈む方向を示すように設計されています。

小牧野遺跡（青森県青森市）

小牧野遺跡のストーンサークルは、細長い石を縦横に並べる「小牧野式」と呼ばれる独特な石の組み方をしています。三重の輪のほか、四重となる弧状列石や直線状列石など、複雑な構造を持ちます。この遺跡では、土葬と再葬の跡が見つかっており、再葬は有力者のみが行われたと考えられています。

伊勢堂岱遺跡（秋田県北秋田市）

3つのストーンサークルがあり、日時計状組石が設けられています。この遺跡も墓群を中心とした祭祀の場と考えられています。小牧野式石組と大湯式の日時計状組石が共存している点が特徴です。

その他のストーンサークル

その他、青森県弘前市の大森勝山環状列石、青森県平川市の太師森環状列石、岩手県滝沢市の湯舟沢環状列石、岩手県八幡平市の釜石環状列石など、縄文時代前期から中期にかけての円筒土器文化圏に属する地域にストーンサークルが見られます。

北海道のストーンサークル

北海道では、渡島半島からオホーツク海側にかけてストーンサークルが分布しています。代表的なものとして、渡島管内森町の鷲ノ木遺跡、後志管内小樽市の忍路環状列石・地鎮山環状列石、余市町の西崎山環状列石、石狩川上流から中流域の音江環状列石や神居古潭ストーンサークルなどがあります。このうち、忍路環状列石は日本で最初に学会報告されたストーンサークルです。

その他の地域のストーンサークル

群馬県安中市の天神原遺跡では、配石墓の上に環状列石が並んでいます。東京都町田市の田端遺跡や群馬県安中市の野村遺跡では、冬至の日の太陽の動きに関わる構造が見られます。また、静岡県富士宮市の千居遺跡と山梨県都留市の牛石遺跡では、富士山周辺の祭祀遺跡として環状列石が見られます。和歌山県海南市の溝ノ口遺跡でもストーンサークルが見つかっています。大分県には、人間の背丈ほどのメンヒルを環状に並べた「佐田京石」があります。

起源

ストーンサークルの密集地域が円筒土器文化圏（東北北部）と重なること、円筒土器が遼河文明と関連することから、日本にストーンサークルをもたらしたのはY染色体ハプログループNに属するウラル系遼河文明人と考えられています。しかし、ウラル系民族に環状列石を造る文化は元来なく、東アジアに環状列石を伝播させた集団はY染色体ハプログループR1bに属する集団とされています。彼らはトカラ語派の担い手としてアルタイ地域まで到達しており、アファナシェヴォ文化では、ストーンサークルを伴った墓が見られます。この文化が東進して遼河文明に入り、ウラル系遼河文明人を介して日本に伝わったと考えられます。

脚注

参考文献
渡瀬荘三郎「北海道後志國は存する環状石籬の遺跡」『人類學會報告』第1巻第2号、日本人類学会、1886年、30-33頁
佐々木, 藤雄「環状列石と縄文式階層社会」,安斎正人 編『縄文社会論（下）』同成社、2002年5月
谷口, 康浩『環状集落と縄文社会構造』学生社、2005年3月25日
江坂, 輝弥、芹沢, 長介、坂詰, 秀一「環状列石」『新日本考古学小辞典』ニュー・サイエンス社、2005年5月20日、104頁
松木, 武彦「並び立つモニュメント」『列島創世記-旧石器・縄文・弥生・古墳時代-』小学館〈全集日本の歴史1〉、2007年11月14日、122-130頁

関連項目

立石 (考古学)
環状集落

外部リンク

『ストーン・サークル』 - コトバンク

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