テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム

テガフール、ギメラシル、オテラシルカリウムは、3種類の有効成分を組み合わせた経口で服用するタイプの抗がん剤です。この薬剤は代謝拮抗薬に分類され、主に胃がんや結腸・直腸がんをはじめとする多種の悪性腫瘍の治療に用いられます。日本国内では「ティーエスワン（TS-1）」という商品名で、大鵬薬品工業株式会社によって製造販売されています。海外、特に欧米では、2011年以降、ノルディックグループにより「Teysuno」という名称で供給されています。

名称の由来

「TS-1」という商品名は、開発過程での名称変更を経て決定されました。当初、この薬剤は「S-1」と呼ばれていましたが、これは開発に深く関わった白坂哲彦博士のイニシャルに由来するとされています。しかし、「S-1」の商標権をすでに佐藤製薬株式会社が保有していたため、大鵬薬品工業（Taiho Pharmaceutical）の頭文字「T」を加えて、「TS-1」と最終的に命名されました。学術論文などでは、開発時の名称である「S-1」と記載されている場合も見られます。

有効成分

この薬剤は、以下の3つの成分から成り立っています。

テガフール（tegafur）：がん細胞内で活性を持つ物質に変換されるプロドラッグ
ギメラシル（gimeracil，化学式:C5H4ClNO2）：テガフール由来の有効成分の分解を阻害する成分
オテラシルカリウム（oteracil potassium，化学式:C4H2KN3O4）：消化器系への副作用を軽減する成分

作用機序

テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤の効果は、これら3つの成分がそれぞれ異なる、かつ協力的な働きをすることによって発揮されます。

1. テガフール：体内で代謝されることで、抗腫瘍効果を持つフルオロウラシルという物質に変化します。このフルオロウラシルが、がん細胞が増殖するために必要なDNAやRNAが作られる過程を妨げ、がん細胞の増殖を抑制します。
2. ギメラシル：テガフールから変換されたフルオロウラシルは、体内で分解されることで効果が失われていきます。ギメラシルは、このフルオロウラシルを分解する酵素の働きを阻害することにより、体内でのフルオロウラシルの濃度を高く保ち、薬剤の効果を持続・増強させます。
3. オテラシルカリウム：フルオロウラシルの影響は、がん細胞だけでなく、正常な細胞、特に消化管の粘膜にも及び、下痢や口内炎といった副作用を引き起こすことがあります。オテラシルカリウムは、消化管におけるフルオロウラシルが活性化されるのを抑制し、消化器系の副作用を軽減する役割を担います。

これら3つの成分が互いに補い合うことで、抗腫瘍効果を高めつつ、副作用を抑える設計となっています。

効能・効果

日本の厚生労働省によって保険適用が認められている主な癌種は以下の通りです。

胃癌
結腸・直腸癌
頭頸部癌
非小細胞肺癌
手術不能または再発乳癌
膵癌
胆道癌
* 胆管癌

これらの適応症以外にも、食道がんなど、他の癌種に対しても有効性が報告される場合があります。

用法・用量

標準的な投与方法では、1日2回、連続で28日間服用した後、14日間休薬するというサイクルを繰り返します。ただし、患者さんごとの薬物の代謝能力には個人差があるため、近年では、体表面積に基づいた一律の量ではなく、個々の特性に応じた最適な投与量や、隔日投与といった新しい投与スケジュールの検討も進められており、より効果が高く、かつ安全に長期投与できる方法が模索されています。

副作用

この薬剤の主な副作用としては、骨髄の機能が低下することによる白血球や血小板の減少（骨髄抑制）、播種性血管内凝固症候群（DIC）、溶血性貧血、肝臓の機能障害、下痢や腸炎、肺の炎症（間質性肺炎）、消化管での潰瘍形成や出血、腎臓の急激な機能低下（急性腎不全）、重篤な皮膚障害であるスティーブンス・ジョンソン症候群やライエル症候群、涙の通り道が狭くなることによる流涙などが報告されています。これらの副作用に注意し、適切な管理が必要です。

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