ハイサイおじさん

「ハイサイおじさん」は、沖縄県出身のミュージシャン、喜納昌吉&チャンプルーズの代表的な楽曲であり、喜納昌吉のデビュー曲です。13歳の頃に創作されたこの曲は、喜納自身の体験に基づいた歌詞が特徴です。「ハイサイ」とは沖縄の言葉で「こんにちは」という意味です。

沖縄民謡のリズムや音階をベースにした、非常に明るく踊りやすい楽曲であり、いわゆるウチナーポップの先駆者的な存在として知られています。発表当初は「民謡ではない」という批判もありましたが、現在では創作民謡として定着し、沖縄の伝統的な踊りであるカチャーシーの定番曲としても広く親しまれています。

曲の内容

歌詞は、近所に住む「おじさん」（女性ヴォーカルが担当）と、そのおじさんに「ハイサイ、おじさん」と挨拶する少年（喜納昌吉が担当）との、コミカルなやり取りを描いています。「おじさん」は、酒好きで、少年に屁理屈をこねる存在として描かれ、少年もまた、おじさんの屁理屈に屁理屈で対抗するような掛け合いを繰り広げます。この「おじさん」のモデルは実在の人物であり、彼に話しかける少年は喜納昌吉自身であると言われています。

喜納昌吉は、この曲の由来について、インタビューや自著で度々触れており、そのあっけらかんとした曲調の背景にある、沖縄戦の傷跡を生々しく語っています。

この「おじさん」は、かつて喜納家の隣人でしたが、その妻が精神を病み、実の娘の首を切り落として鍋で煮るという事件を起こしたために、村八分同然の身となり、以前から親交のあった喜納家に酒を無心に来るようになったといいます。喜納昌吉は、この孤独な「おじさん」との触れ合いの中で、「おじさんに歌を作ってあげよう」と思い立ち、初めて作詞作曲したのが、この「ハイサイおじさん」なのです。

おじさんは、喜納昌吉に戦前は学校の校長をしていたと語っていたそうですが、それは嘘で、実際には遊郭の客を運ぶ馬子でした。また、妻の狂気の原因は、おじさんの酒量が増え、戦災で家を失った女性たちを家に連れ込むようになったことだったとされています。

全国的ヒットまで

沖縄での大ヒット

1969年、沖縄の地元レコード会社であるマルフク・レコードから発売された、民謡歌手である父、喜納昌永のアルバムに初めて収録されました。

1972年には、喜納昌吉と喜納チャンプルーズ名義でシングルカットされ、30万枚の大ヒットを記録しました。レコードの製造は日本コロムビアが行っていました。このマルフク盤は、伝統的な沖縄民謡のアレンジが施されています。2018年に発売された沖縄音楽のコンピレーションアルバム『ベストヒット! 沖縄ソングス』には、このバージョンのリマスター音源が収録されています。

関西での発売

沖縄県外では、まず関西圏で人気に火が付きました。1976年春、大阪のラジオパーソナリティである中村鋭一が、沖縄旅行中にこの曲を聴いて気に入り、キダ・タローのアレンジで吹き込んで発売しました（テイチクレコード A-95）。このレコードのB面には、日本語訳詞（中沢修一訳）が収録されていました。同年、喜納昌吉自身も中村鋭一の番組『おはようパーソナリティ[[中村鋭一です]]』に出演し、「ハイサイおじさん」を含む数曲を演奏しました。この時はスローテンポのバージョンでした。

全国へ

日本全国的に知られるようになったのは、フィリップスレコードから1977年11月に発売されたメジャーデビューアルバム『喜納昌吉とチャンプルーズ』に収録されたバージョンです。このバージョンは、マルフク盤とは異なり、沖縄民謡のテイストを残しつつも、アップテンポのロック調にアレンジされたものでした（編曲は矢野誠）。このアルバムは、喜納昌吉が経営していた民謡クラブ「ミカド」で全曲ライブ録音され、さらに東京で矢野誠、矢野顕子、林立夫らの演奏がダビングされたものです。

同年にはシングル盤も発売されました。当時、ライブ音源を用いたシングル盤には、ジャケットに「実況録音盤」と記載されるのが一般的でしたが、本作にはその旨の表記はありません。ジャケットのイラストは赤塚不二夫が手がけています。また、アルバム『喜納昌吉とチャンプルーズ』と同じイラスト（河村要助作）を用いた、ジャケット違い盤も存在します。

1997年には、日本コロムビアからCDシングルが発売されています。

影響

久保田麻琴・細野晴臣への影響

ロックミュージシャンの久保田麻琴は、旅で訪れた西表島で乗ったマイクロバスの中で、この曲を偶然耳にしました。衝撃を受けた久保田麻琴は、マルフク・レコードを訪れて数枚のシングルを手に入れ、東京の友人へのお土産に持ち帰りました。これに細野晴臣が反応し、細野晴臣が提唱した「チャンキー・ミュージック」の方向性や、トロピカル三部作（『トロピカル・ダンディー』（1975年）、『泰安洋行』（1976年）、『はらいそ』（1978年））に影響を与えたと言われています。久保田麻琴自身も、1975年のアルバム『ハワイ・チャンプルー』でこの曲をカバーしています。

変なおじさん

志村けんは、『志村けんのだいじょうぶだぁ』（フジテレビ）で演じたキャラクター「変なおじさん」のコントで、この曲の替え歌を歌っています。

高校野球の応援歌として

日本の高校野球では、沖縄県代表の応援団のチャンステーマ（応援歌）として定着しており、カチャーシーを踊りながらこの曲を大合唱する姿は、高校野球ではお馴染みの光景です。

沖縄県代表校の応援は、本土の県人会が中心となって行っているほか、同県出身者が指導する市立尼崎高校の吹奏楽部が、1982年以来、毎年友情参加しています。沖縄県代表の応援に、学校を問わず「ハイサイおじさん」が使われるのはこのためです。

2010年の夏の甲子園に興南高校が出場した際には、「遊郭を遊び歩く酒飲みおじさんをからかう原曲の歌詞が、高校野球にそぐわない」という内容の投書が沖縄タイムスに掲載され、1回戦で1度演奏されただけで使用が自粛されましたが、演奏を要望する声が相次いだため、準決勝の報徳学園戦で演奏が復活しました。

2010年代以降はいわゆる「野球留学」により沖縄県出身の選手が他県の学校に進学するケースが増え、それらの学校でも演奏されるようになっています。

その他

ニッポン放送のラジオ番組『ビートたけしのオールナイトニッポン』（1981年 - 1990年）の初期にエンディングテーマとして使われました。

1992年、第二電電（現・KDDI）のCMで、替え歌の「はいったおじさん」が使用されました。

沖縄県出身の元プロ野球選手であるデニー友利が横浜時代、登場曲として使用したことがあります。首脳陣から「あの曲は気が抜けたような感じがするから変えなさい」といった趣旨の指摘をたびたびされたが、自分の生まれ故郷に愛着を持つデニー友利は決して曲を変えませんでした。

那覇空港のターミナルビル内で、航空会社による搭乗便関係のアナウンスの際の効果音に利用されています。

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