ピンザ

ピンザ：伝説のダービー馬とその影

1953年のダービー制覇

ピンザ(1950-1977)は、イギリスで活躍したサラブレッド競走馬です。その華々しい競走生活は、1952年から1953年にかけてのわずか1年間強に凝縮されています。わずか7戦5勝という短いキャリアながら、その輝きは今も語り継がれています。特に、1953年のエプソムダービーでは、戴冠式を終えたばかりのエリザベス2世女王所有の有力馬オリオールを破り、勝利を収めました。この勝利は、ダービー初制覇を達成したサー・ゴードン・リチャーズ騎手にとって、戴冠式の叙勲と相まった、生涯忘れられない出来事となりました。続くキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスも制し、1953年度のイギリス3歳牡馬の頂点に立ったのです。

ピンザの血統と生い立ち

ピンザは、16ハンドを超える堂々とした体格の鹿毛馬でした。その生産者は、クラシック競走で19勝を挙げた名調教師フレッド・ダーリンです。ダーリンは1947年に調教師を引退していましたが、ブラックランズスタッドで競走馬の生産を続けていました。ピンザの母パスクアは、競走成績は平凡でしたが、その血統にはダーリンが調教を手がけたダービー馬マンナ、そしてオークスを制したフィフィネラの血が流れていました。ダーリンはパスクアの潜在能力を見抜き、購入。後にピンザと名付けられる牡駒が誕生しました。1歳時にはサー・ヴィクター・サッスーンに高値で落札され、後にミュージカル『南太平洋』の歌手エツィオ・ピンツァにちなんで命名されました。これは、フランス語で歌手という意味を持つピンザの父シャントゥールの名と、偶然にも共通していました。シャントゥール自身も、コロネーションカップなど数々のレースを制した名馬でした。

競走馬としての活躍

2歳時には、期待されたデビュー戦で敗れましたが、続くタターソールセールステークス、デューハーストステークスと連勝しました。3歳になり、2000ギニーには出走しませんでしたが、ニューマーケットステークスで快勝。ダービーでは、女王所有のオリオール、そしてニアルーラなど強豪を相手に、5対1という人気を背負いながらも、見事勝利を掴みました。続くキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスも制し、三戦無敗で種牡馬入りしました。


種牡馬時代とピントゥリシオ事件

アメリカからの高額な購買オファーを拒否し、ピンザはイギリスで種牡馬として繋養されました。成功した種牡馬とはいえませんでしたが、ピンダリやピントゥリシオなど、活躍馬も輩出しました。特にピントゥリシオは、1961年のダービー本命馬として注目を集めましたが、レース直前に体調不良により出走取消。後に、致死量に近いクロトン油が検出され、大規模なドーピング事件として世間を騒がせました。この事件には、大物ブックメーカーが関与していたと噂されましたが、証拠不十分で捜査は打ち切られました。

ピンザの評価とその後

ジョン・ランドールとトニー・モリスによる著作『A Century of Champions』では、ピンザは偉大なダービー馬として、20世紀のベストイギリス競走馬15位にランクインしています。タイムフォームの評価でも、1953年のヨーロッパ最高レートを記録しています。また、イギリス国鉄のディーゼル機関車にもその名が付けられるなど、その名声は競走界を超えて広く知れ渡っています。ピンザは1977年に亡くなり、ウッディットンスタッドに埋葬されました。その後、このスタッドは転売を経て、現在はシェイク・モハメドのダーレー・グループが所有しています。


ピンザの生涯は、短くも華々しい競走馬としての成功と、その影で起こったドーピング事件という、対照的な二面性を持っています。伝説的なダービー馬としての輝きと、その後の暗い出来事は、競走界の歴史に深く刻まれた出来事として、今も記憶され続けているのです。

もう一度検索