五島牛

五島牛（ごとうぎゅう）とは

五島牛は、長崎県五島列島で肥育される和牛肉です。そのルーツは弥生時代にまで遡り、日本における家畜牛の歴史を語る上で非常に重要な存在です。かつては農業を支える役牛として活躍していましたが、時代とともに改良が重ねられ、現在はその品質の高さから、長崎を代表するブランド和牛として知られています。

五島牛の特徴

長崎県には「長崎和牛」という総称があり、その中でも特に優れた地域ブランドとして「平戸牛」「雲仙牛」「壱岐牛」そして「五島牛」が4大「ご当地和牛」とされています。

五島牛の特徴は、きめ細やかな霜降りと、とろけるような柔らかさです。赤身と脂身のバランスが絶妙で、口にした時の豊かな風味とジューシーさは、他の和牛とは一線を画します。特にヒレ肉は、その極上の味わいから「絶品」と評され、あの松阪牛よりも美味しいと評価する人もいるほどです。

学術的な分析でも、五島牛の美味しさは科学的に裏付けられています。他の牛肉と比較して水分が少なく、粗脂肪の含有量が多いことが分かっています。これにより、加熱後の重量比が高く、弾力性に富み、柔らかい食感を生み出しています。また、抽出液にはヒスチジン、リシン、アスパラギン酸、イノシン酸などの旨味成分が豊富に含まれており、乳酸が少ないことも美味しさの理由の一つです。

五島牛の歴史

五島列島における牛の飼育は、非常に古い歴史を持っています。五島市浜町の弥生時代の貝塚からは、人骨と共に埋葬された牛骨が発見されており、2200年以上前から牛が飼育されていたことが証明されました。この発見は、日本における家畜牛の歴史を塗り替えるものでした。

奈良時代に編纂された『肥前国風土記』には、五島（値嘉島）が「馬・牛に富めり」と記述されており、当時から五島で牛が重要な役割を果たしていたことが伺えます。宇野御厨の一部であった時代には、宇久島や小値賀島の牧で御厨牛が飼育され、その質の高さから貴族の牛車を引く牛として重宝されました。

江戸時代には、小値賀島で牛の数が人口に匹敵するほど飼育されていたという記録も残っています。当時の在来種である小値賀牛は、「正直牛」と呼ばれ、農耕作業に欠かせない存在でした。

五島牛の誕生

「五島牛」という名前が公式記録に登場するのは、1917年（大正6年）発行の農商務省『和牛の調査』です。この頃から、朝鮮牛の導入やデボン種との交配など、牛の改良が積極的に行われるようになりました。当初は役牛としての利用が主でしたが、その品質の高さから、長崎県内だけでなく、岡山県や大阪府にも出荷されていました。

戦後、役牛の需要が減少すると、五島牛は肉用牛としての改良が進められました。1970年頃からは、福江市が農家への支援策を導入し、地域一貫生産体制を推進するなど、本格的な肉牛としての五島牛のブランド化が始まりました。

五島牛の定義と生産

「五島牛」は地域団体商標として登録されており、「長崎県五島列島内で肥育された牛の牛肉」のみがその名称を使用できます。ごとう農業協同組合（JAごとう）がその権利を有しています。

五島列島の中でも、水田との複合農業経営が可能な福江島、久賀島、小値賀島、宇久島での飼育が盛んです。これらの島々は、玄武岩質溶岩に覆われた大地上に放牧に適した草原が広がっており、牛の飼育に適した環境です。

現在、五島市内には約300戸の五島牛農家があり、約4,000頭が飼育されています。農家の数は減少傾向にありますが、飼育頭数は安定しており、五島列島における農業生産高の上位を占めるなど、地域経済を支える重要な産業となっています。

五島牛の流通

五島牛は、JAごとう家畜市場で競りにかけられ、子牛の段階で主に島内で流通します。そのため、肥育牛として育てられた五島牛が長崎県外に出回ることは非常に稀で、「幻の和牛」とも呼ばれています。

近年では、三井楽町での簡易放牧の実験が成功するなど、放牧を行う農家も増えてきており、より自然に近い環境で育てられた五島牛の品質向上が期待されています。

五島牛は、その希少性と品質の高さから、地元だけでなく、全国の食通からも注目を集めています。機会があれば、ぜひその極上の味わいを堪能してみてください。

もう一度検索