定位置停止装置

定位置停止装置（TASC）とは

定位置停止装置（TASC: Train Automatic Stop-position Controller）は、列車が駅に進入する際、プラットフォームの特定の停止位置に正確に停止させるための運転支援システムです。この装置は、列車の自動運転やホームドアの設置が進む中で、その重要性が増しています。TASCは「定位置停止支援装置」とも呼ばれます。

TASCの歴史

TASCの原型は1950年代から1960年代にかけて開発されましたが、当時のブレーキ技術では応答性に課題があり、また、列車が多少ずれて停車しても大きな問題がないと考えられていたため、実用化には至りませんでした。しかし、1970年代後半になると、自動列車運転装置（ATO）の一部機能として、新設の地下鉄や新交通システムに導入されるようになりました。近年では、既存の鉄道でも、ワンマン運転化に伴うホームドアや触車防止センサーの設置が進んだことで、列車の停止位置の精度が求められるようになり、ATO導入の必要がない路線を中心にTASCが普及しています。

TASCの仕組み

TASCの基本的なシステムは、ATOと同様に、駅の手前の一定区間に位置補正用の地上子（無電源）を3つ、そして停止位置に定位置停止用の地上子（有電源）を設置しています。列車が最初の位置補正用地上子を通過すると、停止位置までの距離情報を受信し、車上装置が速度パターン（TASC防護パターン）を生成します。このパターンに沿ってブレーキ制御を行い、列車を減速させ、最終的に停止位置に正確に停止させます。TASCは、ブレーキの応答性が重要となるため、電気指令式ブレーキを搭載した車両で使われることが一般的です。

主な導入路線

以下に、TASCが導入されている主な路線を挙げます。ATO導入路線については、関連項目を参照してください。

JR東日本
山手線、京浜東北線・根岸線、中央・総武緩行線（一部区間）、横浜線、南武線: ホームドア設置に伴い導入。
相鉄線直通列車（羽沢横浜国大駅）: 開業時から導入。
中央線快速（東京駅 - 西八王子駅間）、青梅線（立川駅 - 拝島駅）: グリーン車導入とホームドア設置に伴い導入。

JR東日本ではTASCを「定位置停止支援装置」と位置づけ、停止位置の約150m手前から制御を開始し、運転士はTASC制御開始までに初動のブレーキをかけるのが一般的です。

東京地下鉄（東京メトロ）
銀座線: 日本初のTASC導入路線。輸送力増強のために導入。
丸ノ内線: 一時導入されたが、現在はATO化。

東京都交通局（都営地下鉄）
新宿線

東急電鉄・横浜高速鉄道
東横線・みなとみらい線: 全線で導入。
目黒線・東急新横浜線: 地上区間が多いため、ATOではなくTASCを導入。相互直通運転を行う他路線ではATOが導入されている。
池上線・東急多摩川線: ワンマン運転化に伴い、ホーム柵とセットで導入。運転士の手動ブレーキをバックアップする形で機能。

東武鉄道
伊勢崎線（北千住駅～北越谷駅）: 相互直通運転を行う東京メトロ日比谷線のホームドア設置とATO化に伴い導入。緩行線のみ。
東上本線（池袋駅・和光市駅～志木駅・川越駅）: 東京メトロ有楽町線・副都心線との相互直通運転におけるホームドア設置に対応するため、和光市駅、川越駅、池袋駅に導入。
東武鉄道では、東京メトロのATO設備の一部を利用してTASCを導入しており、ATO装置の一部の定位置停止機能のみを使用しています。

西武鉄道
西武有楽町線（小竹向原駅）: 東京メトロ副都心線との相互直通運転におけるホームドア設置に対応。

小田急電鉄
小田原線、多摩線、江ノ島線の一部区間

相模鉄道（S-TASC）
本線（海老名駅以外）、いずみ野線、新横浜線: ホームドア設置と定位置停止の精度向上を目的として導入。
相鉄のTASCはJR東日本と同様の運用形態で、停止位置の約150m手前から制御を開始します。

首都圏新都市鉄道
つくばエクスプレス: 開業当初からTASC運転に対応。朝ラッシュ時には乗り心地向上のためTASC運転を実施。

名古屋臨海高速鉄道
あおなみ線: ワンマン運転と可動式ホーム柵の採用に伴い導入。

京阪電気鉄道
京津線（御陵駅）

大阪市高速電気軌道 (Osaka Metro)
御堂筋線、今里筋線、中央線: ホームドア設置に向けて導入。

TASCの現状と今後の展望

TASCは、列車の安全運行と効率化に貢献する重要なシステムです。特に、ホームドアの普及が進む中で、その必要性はますます高まっています。今後も、技術の進歩とともに、より高度で信頼性の高いTASCの開発と導入が進むと考えられます。

関連情報

自動列車運転装置(ATO)
陸上交通の車輪／伊藤俊彦

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