持明院

持明院（じみょういん）は、日本の平安時代後期から江戸時代にかけて、平安京の北部、現在の京都市上京区安楽小路町にある光照院周辺に存在した広大な邸宅と、その敷地内に設けられていた寺院の総称です。この場所は特に鎌倉時代以降、退位した上皇や時の天皇の御所（仙洞御所や里内裏）として重要な役割を担い、日本の皇室の系統の一つである持明院統の名前の由来となったことで知られています。

創建と拡充

その起源は、平安時代後期の武将で鎮守府将軍を務めた藤原基頼の邸宅であったことに遡ります。12世紀初頭、基頼は自身の邸宅内に持仏堂を建立し、これを「持明院」と命名しました。基頼の子である藤原通基は、父が築いた持明院をさらに拡充しました。この際に、敷地内の寺院としての名称を安楽光院（または安楽行院）と改めましたが、屋敷全体の号としては、引き続き「持明院」を家の名称として用いることとなりました。

仙洞御所・里内裏として

鎌倉時代に入ると、持明院は皇室との結びつきを強めます。藤原基頼の子孫である持明院基家の娘、陳子（後の北白川院）が守貞親王の妃となり、後の後堀河天皇となる茂仁親王を出産しました。承久の乱の後、茂仁親王が後堀河天皇として即位すると、その父である守貞親王には太上天皇の尊号が贈られ、後高倉院としてこの持明院を御所として院政を開始しました。このことから、守貞親王は持明院宮とも称されました。後を継いで、後堀河天皇自身も退位後はこの持明院を仙洞御所として院政を執り行いました。

守貞親王の系統が一度絶えた後も、持明院は後嵯峨天皇や後深草天皇の退位後の御所として利用されました。特に後深草天皇に連なる皇室の系統は、この持明院を主な拠点としたことから、後に持明院統と呼ばれるようになります。伏見上皇、後伏見上皇、花園上皇、光厳上皇、そして光明上皇といった、後深草天皇系の歴代の上皇たちも、いずれも持明院殿を御所として使用しました。また、南北朝時代には、一時期、崇光天皇の内裏としても機能しました。

ただし、持明院統がこの持明院を所有するようになった経緯については、守貞親王系が途絶えた後に、後堀河天皇の皇女である室町院（暉子内親王）が持明院を御所として使用し、その死去後に伏見上皇が継承したことが端緒であるという説があります。また、後深草天皇自身は、外祖父である西園寺実氏から献上された冷泉富小路殿で晩年まで過ごしたとする研究者の指摘も見られます。

持明院統と並び称される皇室の系統として、亀山天皇に連なる大覚寺統があります。こちらは亀山天皇が退位後に大覚寺を御所としたことに由来するとされますが、こちらも後宇多上皇が大覚寺に居住したことが大覚寺統の拠点とする説が有力視されています。

焼失と寺院のその後

長らく皇室の御所として使われた持明院でしたが、1353年（南朝：正平8年、北朝：文和2年）2月、後光厳天皇の御代に発生した火災により主要な建物が焼失しました。敷地内にあった安楽光院の一棟だけは残存しましたが、邸宅部分はその後荒廃が進みました。

残った安楽光院は、後に広義門院（伏見上皇の妃）の命によって再興され、室町時代にも持明院統にゆかりのある仏事などが引き続き営まれました。江戸時代になると、安楽光院は東山にある泉涌寺の塔頭（子院）の一つと位置づけられています。また、応仁の乱の後、後伏見天皇の皇女である進子内親王ゆかりの光照院がこの地に移転してきたという伝承もあり、移転からしばらくの間、光照院が「安楽光院」を名乗っていた時期もあったと言われています。

深草法華堂への伝承

さらに別の伝承として、持明院の敷地内に残っていた安楽光院の一部が、現在の京都市伏見区深草の地に移され、深草法華堂となったとする説もあります。この深草法華堂には、持明院統の祖である後深草天皇をはじめとする12代の天皇の陵墓が設けられ、17世紀後半には安楽行院として再興されましたが、明治時代の廃仏毀釈によりその姿を消すこととなりました。

現状

現在の持明院跡は、かつての広大な敷地の面影はほとんど残っていません。跡地の一部は駐車場として利用されています。

アクセス

現在の跡地周辺は、京都市営地下鉄烏丸線「今出川駅」から室町通と上立売通を経由し、徒歩およそ8分（約600メートル）の場所に位置しています。

もう一度検索