文政丁銀

文政丁銀（ぶんせいちょうぎん）とは

文政丁銀は、文政3年（1820年）に鋳造が開始され、同年7月20日から通用が開始された丁銀の一種であり、秤量貨幣です。これは、先に発行された元文丁銀と区別するため、「新文字丁銀」または「草文丁銀」とも呼ばれます。また、文政丁銀と文政豆板銀を合わせて「文政銀」、「新文字銀」、「草文銀」と総称します。

概要

文政丁銀の表面には、大黒像と「常是」の文字、および草書体の「文」字の極印が打たれています。この「文」字の有無が元文丁銀との大きな違いです。特に、12面の大黒像が打たれた十二面大黒丁銀は、上納用や祝儀用として用いられたと考えられています。

歴史

幕府の財政状況が悪化する中、勘定奉行であった服部貞勝の進言により、改鋳による利益獲得を目的として文政丁銀が発行されました。この改鋳は、小判の改鋳から1年遅れて行われ、元禄や元文の改鋳のように金銀を同時に行う計画性はありませんでした。また、鉱山からの産出に頼ることができず、旧貨の回収が主な資源となりました。


寛政12年（1800年）の銀座改革により、銀座の機能が江戸に集約されたため、文政銀以降の銀貨はすべて江戸で鋳造されました。


当初、旧貨幣である古文字銀との引換に増歩が与えられず、また新旧文字銀が無差別通用であったため、引き換えがなかなか進みませんでした。そのため、幕府は文政7年（1824年）に両替商に引換を強制し、増歩を付与しましたが、発行高は伸び悩みました。翌年、古文字銀の通用停止を布告しましたが、回収は進まず、最終的に通用停止は文政10年（1827年）まで延期されました。


また、南鐐二朱判のような計数貨幣の流通が拡大し、丁銀の地位は低下しました。文政丁銀の一両あたりの銀含有量は、明和南鐐二朱判とほぼ同等であり、名目貨幣が本位貨幣の含有量を決定する形になったと言えます。


文政丁銀の通用停止は、文政金、草文二分判、文政南鐐二朱銀、および文政南鐐一朱銀と共に、天保13年（1842年）に行われました。

文政豆板銀

文政豆板銀は、文政丁銀と同品位の豆板銀であり、「寳」の文字と草書体の「文」字を抱えた大黒像の周囲に小さい「文」字が配置された「廻り文」が基本です。その他にも「群文」や「大字文」などの種類が存在します。

品位

『旧貨幣表』によれば、文政銀（草文銀）の規定品位は銀36％、銅64％です。明治時代に行われた分析では、銀の含有量は35.25％であり、残りは銅が大部分ですが、微量の鉛なども含まれています。

鋳造量

『旧貨幣表』によると、丁銀と豆板銀の合計鋳造量は約841トンに及ぶとされています。銀座は鋳造高の7％を分一銀として受け取りましたが、諸経費を差し引いた残りは3.5％でした。また、改鋳により幕府が得た利益は約31,803貫でした。

まとめ

文政丁銀は、幕府の財政難を背景に発行された貨幣であり、元文丁銀との区別として草書体の「文」の字が刻印されています。初期には流通が進まなかったものの、最終的には大量に鋳造され、江戸時代の貨幣経済を支えました。しかし、計数貨幣の普及に伴い、秤量貨幣である丁銀の地位は低下していきました。

参考資料

青山礼志『新訂 貨幣手帳・日本コインの歴史と収集ガイド』ボナンザ、1982年。
久光重平『日本貨幣物語』毎日新聞社、1976年。
石原幸一郎『日本貨幣収集事典』原点社、2003年。
小葉田淳『日本の貨幣』至文堂、1958年。
草間直方『三貨図彙』1815年。
三上隆三『江戸の貨幣物語』東洋経済新報社、1996年。
滝沢武雄『日本の貨幣の歴史』吉川弘文館、1996年。
瀧澤武雄，西脇康『日本史小百科「貨幣」』東京堂出版、1999年。
田谷博吉『近世銀座の研究』吉川弘文館、1963年。
三井高維 編『新稿 両替年代記関鍵 巻二考証篇』岩波書店、1933年。
* 日本貨幣商協同組合 編『日本の貨幣-収集の手引き-』日本貨幣商協同組合、1998年。

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