服部正成

服部正成：鬼半蔵と恐れられた武将

服部正成は、戦国時代から安土桃山時代にかけて活躍した武将で、徳川家康に仕え、その武勇と諜報活動で名を馳せました。一般的には「服部半蔵」の名で知られ、「鬼半蔵」の異名を持ちます。

生い立ちと出自

正成は天文11年（1542年）、三河国（現在の愛知県岡崎市）に服部保長の五男あるいは六男として生まれました。父・保長は伊賀国の土豪で、千賀地氏の一門の長でした。しかし、生活が逼迫したため、保長は旧姓の服部を名乗り、室町幕府に仕えましたが、後に松平清康に見出され、松平氏（後の徳川氏）に仕えることになります。正成の幼少期については、大樹寺で過ごしたという家伝がありますが、詳細な記録は残っていません。

徳川家康への仕官

正成は父の跡を継ぎ、徳川家康に仕えました。初陣は16歳の時、三河宇土城（上ノ郷城）への夜襲で、この功績により家康から盃と持槍を授かりました。その後、姉川の戦いや三方ヶ原の戦いなど、数々の戦で武功を重ねています。

主な戦歴と逸話

宇土城攻め: 16歳で初陣を飾り、家康から槍を拝領。
桶狭間の戦い: 家康の旗本馬廻衆として活躍。
三河一向一揆: 一向宗であったにもかかわらず家康に忠誠を誓い、一揆勢と戦う。
掛川城攻め: 渡辺守綱らと共に参戦。
姉川の戦い: 姉川堤で一番槍の功名を上げる。敵兵を欺いて討ち取るなど、知略にも長けていた。
三方ヶ原の戦い: 先手として一番槍の功名を上げるが、徳川軍は大敗。家康を守り、浜松城へ帰還。
高天神城攻め: 大須賀党組に属し、城攻めに参加。

「鬼半蔵」と呼ばれる所以

正成は、その勇猛さから「鬼半蔵」と恐れられました。特に、三方ヶ原の戦いでの活躍は目覚ましく、敵を単身で撃退した逸話が残っています。また、家康が正成の働きを「鬼槍である」と評したことが、「鬼半蔵」の異名につながったとも言われています。

伊賀同心との関係

一般的に「伊賀忍者の頭領」というイメージが強い正成ですが、実際には徳川家の旗本先手武将であり、伊賀の忍者の頭領ではありませんでした。しかし、伊賀衆を指揮し、諜報活動や戦場での活躍を支援したことから、そのイメージが定着しました。伊賀越えの際には、伊賀・甲賀の土豪と交渉し、家康一行を安全に護衛。その縁で徳川家に仕えた伊賀同心は、正成の指揮下に入りました。しかし、伊賀同心たちは「徳川家の家臣であって服部氏の家臣ではない」と主張し、正成との間に確執が生じたとされています。

信康介錯の逸話

家康の嫡男・信康が織田信長に疑われ自刃を命じられた際、正成が介錯を命じられました。しかし、正成は信康のあまりの痛ましさに刀を投げ捨て落涙したため、代わりに天方通綱が介錯を行いました。この逸話は『三河物語』にも記述されており、正成の人間味を表すものとして語り継がれています。

伊賀越え

本能寺の変後、堺に滞在していた家康一行が三河へ帰還する際、正成は先祖の出自が伊賀であることから、伊賀・甲賀の土豪と交渉し、一行を安全に通過させました。この功績により、正成は家康からの信頼をさらに深めました。

小田原征伐と晩年

小田原征伐では鉄砲奉行として従軍し、その武功が認められました。家康の関東入国後は、与力30騎と伊賀同心200人を付属され、8,000石を領しました。文禄元年（1592年）には肥前名護屋へ鉄砲奉行として従軍。慶長元年11月14日（1597年 1月2日）、病のため亡くなりました。死因は不明です。

死後の服部家

正成の死後、嫡男・正就が三代目服部半蔵を継ぎましたが、伊賀同心との軋轢や規律違反により改易。その後、次男・正重が四代目服部半蔵を継ぎました。正重は佐渡金山同心を経て、村上藩、桑名藩に仕え、家老職を務めました。服部半蔵の名は幕末まで続き、その家系は代々家老職を輩出しました。

服部半蔵の屋敷

正成の屋敷は尾御門内にあったため、この門は後に半蔵御門と呼ばれるようになりました。その後、赤坂御門内に移ったとされていますが、屋敷の正確な場所は不明です。晩年の屋敷は、現在の清水谷公園周辺にあったと推測されています。

正成の戦闘術

正成の戦闘術は、多くの史料に記録されています。敵の襲撃を常に警戒し、寝る時も床に直接寝ない、羽織の紐を結ばないなど、常に戦える準備をしていました。また、足の先で蹴り、兜の眉庇を狙うのが得意であったと伝えられています。

由来の武具

正成が使用した武具の一部は、現在も保存されており、拝観できるものもあります。しかし、その多くは火災や戦乱により失われました。

足利将軍より拝領の具足、槍、刀：焼失したものもある。
葵紋の盃と持槍：宇土城攻めで家康より拝領。
姉川一番槍の槍：所在不明。
三方ヶ原の戦功で拝領した槍：西念寺に所蔵されているものと推測。
平安城長吉の槍：正重が献上し、所在不明。
相州廣正の懐剣：竹庵を討ち止めた褒美。
黒中核の黒藍皮縫延鎧：焼失。
直江志津の打刀：本多忠勝の家老に贈呈。
西念寺所蔵の槍：三方ヶ原の戦功で拝領したと伝わる。

登場作品

服部正成は、多くのフィクション作品に登場しています。ここでは、正成本人として登場する作品を記します。

映画

『反逆児』

テレビドラマ

『徳川家康』 (1964年)
『築山殿始末』
『徳川家康』 (1983年 NHK大河ドラマ)
『戦国最後の勝利者!徳川家康』
『徳川家康と三人の女』
『真田丸』
『どうする家康』 (2023年 NHK大河ドラマ)

服部正成は、武勇と知略に長けた武将であり、徳川家康を支えた重要な人物の一人でした。その生涯は多くの謎に包まれていますが、その活躍は今も語り継がれています。

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