清涼殿

清涼殿（せいりょうでん）

清涼殿は、平安時代の平安京内裏に位置し、天皇の日常生活の中心として使用されました。仁寿殿の西側、後涼殿の東側にあり、平安時代初期には主に仁寿殿や常寧殿が天皇の住まいとして利用されていましたが、次第に清涼殿がその役割を担うようになりました。紫宸殿が公式の儀式を行う場であるのに対し、清涼殿は日常の政務を扱い、四方拝や叙位、除目などの行事も執り行われました。

時代が進むにつれ、清涼殿は次第に儀式の場としての色彩が強まり、鎌倉時代以降は常御所が天皇の日常的な居所となることになります。清涼殿はその後、火災により内裏が焼失した際も再建されることはなく、臨時の皇居である里内裏に清涼殿に代わるものとして再建されました。現在の京都御所も元々は里内裏にあたり、1855年には古式に則って再建されたものが保存されています。

構造と特徴

清涼殿の建物は九間の四面から成り、身舎は南北五間、東西二間の広さを持ち、周囲には廂があります。特に東側の廂は弘廂と呼ばれ、屋根は檜皮葺の入母屋造りです。正面の東側には東庭が広がり、北には呉竹の台、南には河竹台があります。この東庭では明治以前まで小朝拝などの行事が行なわれていました。

主に天皇が居住する部分には、昼御座（天皇の出御の場）および夜御殿（天皇の寝所）があります。昼御座の北には弘徽殿上御局と藤壺上御局があり、これらは後宮の女性が伺候する部屋です。また、西側の廂には天皇の日常生活を支えるさまざまな部屋が並んでおり、食事の準備をする御湯殿上、調髪を行う御手水間、朝食を摂るための朝餉間、さらに食事を載せるための台盤所や厨子を置く鬼の間が存在しています。

南廂にある殿上間は公卿や殿上人が伺候する場であり、日々当直する公卿の名を書いた日給の簡（ひだまいのふだ）が置かれています。天皇の玉座である御椅子や傍に置かれた文杖もこの殿上間に位置します。さらに、東廂の東南部には床が漆喰で固められた石灰の壇があり、ここで伊勢神宮などへの遥拝が毎朝行われていました。石灰の壇には塵壺という炉も設置されており、寒い時期には火が熾されていました。

鬼の間とその意義

清涼殿の一部に「鬼の間」という部屋が存在し、これは古来から日本で鬼門とされる北東の位置に設けられています。清涼殿の南西隅に位置し、万葉集や一部の古文書に記述が見られます。この空間は鬼を表現する役割を果たしており、特に康保元年（964年）に大和絵師飛鳥部常則が鬼を退治する白沢王の像を描いたとされています。

順徳天皇が記す『禁秘抄』には、鬼の間の内部の絵が描かれており、白沢王が鬼を追う姿が描かれています。この絵は、古代の武将でありインドの王であるとの説もあり、鬼の間は皇室や天皇家が災害や疫病を避けるために設けられた祈願の場でもありました。

調度品

清涼殿には数多くの調度品も存在しており、その中でも特に御帳台や荒海障子、昆明池障子、時の簡といったものが挙げられます。御帳台は天皇の休息所であり、荒海障子は高さ9尺の布張りの障子で、特に墨で描かれた荒海の中島の図が有名です。昆明池障子は、中に昆明池の図や嵯峨野小鷹狩の図が描かれており、時刻を示すために設けられた時の簡は、内豎によって時刻ごとに立て替えられる工夫が施されています。

このように、清涼殿は平安時代の文化や皇室の日常を探る上で欠かせない重要な建築物です。現存する京都御所に伝わる清涼殿の再建によって、当時の伝統や美術が今に伝えられています。

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