石上乙麻呂

石上乙麻呂 (いそのかみ の おとまろ)

石上乙麻呂は、奈良時代に活躍した公卿であり文人です。名は弟麻呂とも記録され、彼の父は左大臣の石上麻呂です。官位は従三位及び中納言に至り、当時の権力構造の中で重要な役割を果たしました。

経歴の概要

乙麻呂の初期のキャリアは聖武天皇の即位直後、神亀元年（724年）に始まります。この年に彼は正六位下から従五位下へと昇進し、その後も官位を急速に上げていきます。天平4年（732年）には従五位上となり、丹波守の職を得ました。その後も藤原四子政権や橘諸兄政権を背景に、官位は天平8年（736年）には正五位下、天平9年（737年）には正五位上、そして天平10年（738年）には従四位下及び左大弁と昇進します。

しかし、天平11年（739年）には藤原宇合の妻であった久米若売と不倫の罪を問われ、土佐への流罪という厳しい処分を受けました。この事件には橘諸兄の政権に対する乙麻呂の影響力を削ぐ目的があったとの見方もあり、彼の流罪は当時の政治情勢を反映しています。

流罪からの赦免は天平13年（741年）に行われ、その後も着実に官位を上げ、天平15年（743年）には従四位上に昇進しました。その他の官職として西海道巡察使、常陸守、治部卿、右大弁、中務卿などを歴任し、最終的には従三位・参議に叙任され公卿に列することとなります。特に天平18年（746年）には遣唐使の大使に選ばれ、これは新羅に対する牽制策でもあったとされます。

乙麻呂は、天平勝宝元年（749年）の孝謙天皇の即位に伴い中納言に昇進し、その後の天平勝宝2年（750年）に薨去しました。彼の最終的な官位は中納言従三位兼中務卿でした。

人物としての魅力

乙麻呂はただの政治家や文人ではなく、その家柄や声望だけでなく、彼の美しい容姿も際立っていました。儒教を信じていた彼は、漢詩にも秀でており、その文才は高く評価されました。彼の詩は『懐風藻』に掲載されたものがあり、また土佐での流罪中に詠んだ詩も広く知られています。特に流罪の際に表現された『銜悲藻』は、彼が詩を通じて感情を表現する先駆者であったことを示しています。彼の作品には、『万葉集』に収められた短歌もあり、特に土佐での流罪に関する一連の歌は、彼の心情や苦悩を伝えています。

最後に

彼の経歴や創作活動は、奈良時代の文化や政治の複雑さを映し出しており、石上乙麻呂はその時代における重要な人物であることに疑いの余地はありません。彼の生涯は、権力と人間の感情の交錯を描いた物語でもあり、後世に渡って影響を与えることになります。

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