碁所

碁所（ごどころ）

碁所とは、江戸幕府において囲碁界を統括するとされた役職です。寺社奉行の管轄下に置かれ、定員は1名で、50石20人扶持、御目見以上の待遇でした。碁所には、囲碁家元である本因坊家、井上家、安井家、林家の四家から、名人の技量を持つ者が選ばれて就任しました。徳川家康が囲碁を愛好したことから、将棋所よりも上位に位置づけられていたとされています。

碁所の成立

寛文2年（1662年）に囲碁、将棋が寺社奉行の管轄下に置かれるなど、幕府の政治機構の整備に伴い碁方の正式な長が必要となり、寛文8年（1668年）10月18日に幕府が安井算知を碁所に任命したのが始まりです。

各家元は、この碁所の地位をめぐって争碁や政治工作などを繰り広げました。特に、水戸藩主徳川斉昭、老中松平康任、寺社奉行なども巻きこんだ本因坊丈和と井上幻庵因碩による抗争は「天保の暗闘」として知られています。

なお、各藩においても、碁技によって禄を受けた者を碁所と呼ぶことがありました。

碁所の起源

碁所の起源は、天正16年（1588年）に豊臣秀吉が当時の第一人者であり名人の呼称を許されていた本因坊算砂に20石20人扶持を支給したことなど、碁打衆の専業化が始まったことに遡ります。徳川家康も慶長17年（1612年）に囲碁・将棋の強者である碁打衆将棋衆8名に俸禄を与えることとし、その筆頭は囲碁・将棋の両方において本因坊算砂で、五十石五人扶持でした。

明治37年(1904年)刊の安藤如意「坐隠談叢」では、この時を碁所の設置としていますが、正確な歴史書とは言えません。増川宏一の著書『碁』では、碁所の発祥の天正説・慶長説は否定されています。慶長17年段階では個人の芸に対する評価としての扶持であり、世襲の概念もまだ発生していなかったとされています。

その後、算砂と、その跡を継いで元和9年（1623年）に名人となった中村道碩が、事実上の碁打衆の頭領格となっていたと考えられます。ただし、増川宏一によると、この時期にはまだ、「名人」「碁所」「将棋所」いずれの名称も存在しておらず、後世の囲碁家・将棋家が伝聞を元に創作した可能性も指摘されています。

増川宏一の著書『将棋Ⅱ』では、家元への家禄が発生したのが1635年（寛永12年）、将棋指しが寺社奉行の管轄下になった（＝将棋所の発生）のが1662年（寛文2年）とされており、増川の著書『碁』では碁所が発生したのも同じ1662年（寛文2年）ごろとされています。秋田昇一の著書『徳川時代の囲碁界を知る 「本因坊家伝」と「碁所旧記」を読み解く』では、初代碁所は1668年に名人碁所となった安井算知とされています。

寛永7年（1630年）の道碩の死後、その地位を巡って本因坊算悦と安井算知が争碁を行うものの決着はつきませんでした（碁所詮議）。本因坊算悦は万治元年（1658年）に死去し、安井算知は名人の手合に進むこととなり、同時に碁所となりました。この頃から、碁所という名称が公に文書で使われるようになり、後の本因坊道策への御證書にも碁所の名称が使われています。この時期から本因坊家、安井家、中村道碩を継いだ井上家の三家に家禄が支給されるようになり、後に林家も加わって家元四家となりました。

名人碁所不在の際は、本因坊家が碁家、将棋家のとりまとめ役を務めていました。

従来の囲碁史においては、本因坊丈和が名人碁所になった時について、名人碁所になった棋士は「お止め碁」として、以降は公式の対局は行わないとされていましたが、実際は、丈和以前の碁所就任者について、下記のように統一されていません。

本因坊道策は名人碁所になった後も御城碁を打っています。ただし、1698年（元禄11年）の御城碁について、道策は碁所として対局の組み合わせを作ったが自身の対局予定をなしとし、安井知哲が自分と道策との対局を望んだが、道策が断ったことが「大橋家文書」に記されています。増川宏一は「道策が対局を避けたのは、負けた場合に権威にかかわるからであろう」と記しています。
井上道節因碩は名人碁所になった後は御城碁を打っていません。
本因坊道知は名人碁所になった後は御城碁を打っていません。
本因坊察元は名人碁所になった後も御城碁を打っています。

碁所就任者

安井算知（就任期間：寛文8年（1668年）-延宝4年（1676年））
本因坊道策（延宝5年（1677年）-元禄15年（1702年））
井上道節因碩（宝永7年（1710年）-享保4年（1719年））　- 「名人」には1708年から
本因坊道知（享保6年（1721年）-享保12年（1727年））
本因坊察元（明和7年（1770年）-天明8年（1788年））
本因坊丈和（天保2年（1831年）-天保10年（1839年））

参考文献

増川宏一「ものと人間の文化史59 碁」法政大学出版局 ISBN 4588205919
中山典之「囲碁の世界」岩波書店 ISBN 4004203430

関連項目

囲碁の歴史
名人 (囲碁)
将棋所
棋待詔 - 古代中国の官職。囲碁の国手（名人）が務めた。

外部リンク

* 初代本因坊算砂と御城碁の始まり （ 近世の碁 ） - 日本棋院

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