空沼岳

空沼岳：札幌市民に愛される身近な山

札幌市石狩管内にある空沼岳は、標高約1251mの美しい山です。札幌中心部から車で約40分というアクセスの良さから、市民の憩いの場として親しまれており、年間を通して多くの登山者で賑わいます。夏は爽やかなハイキング、秋は燃えるような紅葉、冬は雪化粧した山々でのスキー登山など、四季折々の自然を満喫できます。山頂付近は支笏洞爺国立公園の第1種特別地域に指定されており、その豊かな自然環境は厳重に保護されています。

空沼岳の名前の由来

空沼岳という名前の由来は諸説あり、確かなことは分かっていません。山頂付近に大小の沼があることから「空沼」と名付けられたという説が有力ですが、確証はありません。別の説では、アイヌ語が起源ではないかという見方もあります。空沼岳を源流とするラルマナイ川（古名：ソラルマナイ、滝の潜る所）との関連性が指摘されていますが、これも仮説の段階です。

空沼岳の地形と地質

空沼岳は、第四紀更新世に火山活動によって形成されたと考えられています。地質学的な調査から、空沼岳溶岩の上に漁岳溶岩流が重なっていることが判明しており、漁岳よりも古い火山であることが分かっています。

山頂から北西に伸びる稜線には、幅約500メートル、長さ約2キロメートルにわたるグラーベン（地溝）と呼ばれる断層地形が存在します。この地溝の東側には、大規模な地すべり地形が広がっており、万計沢に向かって広がっています。地溝の北西端部には、二次、三次といった複数の地すべり地形が連なっており、南東端部では山頂直下から別の地すべり地形が東方に延びています。

これらの地すべり地形は、登山ルートにも影響を与えています。例えば、湯の沢コースの登山道入口付近は地すべり地形のため、比較的緩やかな勾配となっています。また、簾舞コースにある「迷い平」と呼ばれる複雑な地形も、地すべり地形の一種です。

空沼岳の沼

空沼岳の東麓には、地すべり運動によってできた窪地に水が溜まって形成された多くの沼が存在します。代表的な沼として、以下の3つが挙げられます。

万計沼: 真駒内川の支流である万計沢の水源。直径約100メートル。アイヌ語で「下の沼」を意味する「パンケ・ト」に由来すると言われています。
真簾沼: 空沼岳最大の沼。周囲が開けており、一見キャンプに適した場所のようにも見えますが、環境保全の観点から、実際にはキャンプは推奨されていません。真駒内川と簾舞川の水源近くにあることから命名されました。
長沼: 湯の沢の源流部に位置する細長い沼。長径約60メートル、短径約20メートル。アイヌ語名は「タンネ・ト」（長い沼）でした。

登山ルート

空沼岳への登山ルートは主に2つあります。

1. 湯の沢コース

夏季の土日祝日には、札幌市営地下鉄南北線真駒内駅から北海道中央バスの「空沼登山口」行きバスが運行されています。それ以外の日は、自家用車、または「空沼二股」バス停から30分程度の徒歩で登山口に向かう必要があります。バス停は日鉄鉱業北海道支店常盤採石所の敷地内にあります。

登山道は、真駒内川を渡り、支流である万計沢に沿って進みます。途中、青沼という小さな沼を見ることができます。万計沼の畔には山小屋が2軒あります。万計沼を過ぎると、真簾沼が現れ、その傍らには龍神地蔵が祀られています。その後、やや下って急な登りを越えると、札幌岳への縦走路との分岐点を通過し、安山岩の露出した山頂に到着します。山頂からさらに進むと空沼を見ることができますが、藪漕ぎが必要となります。札幌岳縦走路は荒廃していますが、札幌近郊で1000メートル級の山々を縦走できる貴重なルートであり、ヒョウタン沼を見下ろすこともできます。

2. 簾舞コース

湯の沢コースにバスが運行される前は、主に利用されていたルートです。定[[山渓鉄道線]]の東簾舞停留所から出発します。約6キロメートル進むと、真簾峠に到着します。簾舞川と真駒内川の頭文字をとって名付けられました。峠の東には標高651.6メートルの峰があり、「真簾山」と呼ばれることもあります。

真簾峠から約3キロメートル南下すると、鞍馬越と呼ばれるS字状の鞍部を通過します。鞍馬の背のような地形から名付けられました。さらに進むと、迷いやすい平坦地「迷い平」に出ます。かつては湯の沢源流の長沼に通じる山道がありましたが、現在は消失しています。迷い平の先は万計沼へと続きます。

空沼岳の山小屋

空沼岳には、登山者の休憩場所として山小屋がいくつか存在します。

空沼小屋: 1928年、秩父宮雍仁親王の下賜金によって建てられ、「宮様ヒュッテ」と呼ばれていました。収容人数30名。老朽化により使用禁止となっていましたが、2017年に修復されました。かつては青い屋根でしたが、修復後は赤色に塗り替えられました。北海道大学が管理しています。
万計山荘: 札幌営林署定山渓営林事務所が建設した山小屋。収容人数50名。設備が充実しており、ボランティアによって運営されています。
万計小屋: 空沼小屋のすぐ下にあったバラック式の簡素な小屋でしたが、現在は存在しません。

参考資料

『さっぽろ文庫』北海道新聞社
『札幌地名考』
『札幌の山々』
『地形と地質』
梅沢俊、菅原靖彦『北海道夏山ガイド』
関秀志 編『札幌の地名がわかる本』
* 札幌市の公式観光サイト　空沼岳

もう一度検索