貞斎泉晁

貞斎泉晁：江戸時代の浮世絵師、その生涯と作品

貞斎泉晁（ていさいせんちょう）は、江戸時代前期から中期にかけて活躍した、謎多き浮世絵師です。正確な生没年は不明ですが、文化9年（1812年）生まれと推定され、文政から弘化の頃（1818年から1848年頃）にかけて作品を制作していたと考えられています。

彼の出自や詳細な経歴は明らかになっていません。姓は記録に残っておらず、吉蔵という俗称と、青蔦亭、素月園という号を用いていたことが分かっています。江戸の霊岸島に住んでいたと伝えられています。

泉晁は、当時著名な浮世絵師であった渓斎英泉に師事しました。英泉の画風を受け継ぎつつ、独自の作風を確立したとみられています。彼の作品は、主に美人画と合巻の挿絵です。合巻とは、小説や物語を挿絵と共に掲載した書籍のことで、当時の大衆娯楽として人気を博していました。泉晁は、こうした出版物に数多くの挿絵を提供することで、当時の出版文化に貢献したと考えられます。

現存する作品からは、泉晁が優れた描写力と繊細な表現力を持っていたことが分かります。特に美人画では、女性の優美な姿や表情を巧みに捉え、観る者の心を惹きつける魅力的な作品を数多く残しています。

彼の代表的な作品として、以下のものが挙げられます。

『和歌三人由来』 (文政10年、1827年刊行)： 瀬川路考（五代目瀬川菊之丞）作の合巻の挿絵を担当。最終丁に「英泉門人十六歳 貞斎泉晁画」という落款があり、この作品が制作された当時、泉晁が16歳であったことが分かります。
『時話今桜野駒』 (天保2年、1831年刊行)： 松亭金水作の合巻の挿絵。
『娘曽我振袖日記』 (天保3年、1832年刊行)： 墨春亭梅麿作の合巻の挿絵。
『坂東水滸伝』 (天保元年～2年、1830～1831年刊行)： 為永春水作の人情本の挿絵。
「傾城泉流合　玉屋内小式部」： 大判錦絵。東京都立図書館所蔵。
「当世五人美女　極印千右衛門」： 大判錦絵。東京都立図書館所蔵。
「傾城五景の富士　姿海老屋内　姿野」： 大判錦絵。早稲田大学演劇博物館所蔵。
「仙女香引札　大黒とお福女」： 江戸東京博物館所蔵。
* 「素顔夏の富士」： 大判錦絵。江戸東京博物館および国立劇場所蔵。

これらの作品は、東京都立図書館、江戸東京博物館、早稲田大学演劇博物館、国立劇場など、複数の機関に収蔵されており、現在も人々に鑑賞されています。

残念ながら、貞斎泉晁の生涯については不明な点が多く残されていますが、彼の残した作品は、江戸時代の浮世絵文化の一端を垣間見ることができ、貴重な資料となっています。今後の研究によって、彼の経歴や作品に関する新たな知見が得られることが期待されます。

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