銭形平次捕物控

銭形平次捕物控：時代劇の金字塔とその多様な展開

『銭形平次捕物控』は、野村胡堂による小説を原作とする、江戸時代を舞台にした捕物帳です。神田明神下に住む御用聞き、銭形平次は、相棒の八五郎と共に、持ち前の推理力と、小石を投げるように寛永通宝を投げつける独特の捜査方法で、次々と難事件を解決していきます。物語は、八五郎が慌てて平次に事件を知らせ、謎かけのような問答を交えながら現場へと向かうシーンから始まるのが特徴です。

岡本綺堂の『半七捕物帳』と並び称されるほど有名な捕物帳であり、時代劇作品の中でも特に高い人気を誇ります。縄田一男は、本作を『右門捕物帖』『人形佐七捕物帳』『若さま侍捕物手帖』と共に五大捕物帳の一つに数えています。

江戸時代のどの時代が舞台なのか？

作品の舞台となる時代は明確には描かれていません。初期の作品は寛永期（1624年～1645年）を舞台としているものの、物語が進むにつれて文化文政期（1804年～1830年）へと移行しています。この曖昧な時代設定が、作品の世界観をより広げ、時代を超越した魅力を生み出していると言えるでしょう。

原作小説：誕生秘話と出版の歴史

1931年、文藝春秋の「文藝春秋オール讀物号」創刊号に掲載された「金色の処女」が、『銭形平次捕物控』の第一作目となります。その後、第二次世界大戦を挟みながら1957年まで、長編・短編合わせて383編もの作品が発表されました。

野村胡堂は、文藝春秋からの依頼で岡本綺堂の『半七捕物帳』のような作品を構想する中で、建設現場で見た「錢高組」の看板と社章から「銭形」という名前と投げ銭のアイデアを得たと言われています。『水滸伝』の没羽箭張清のエピソードも、投げ銭のヒントになったようです。

高い人気を誇る作品であるため、何度も版を変えて出版されていますが、全作品を収録したものは河出書房から刊行された「錢形平次捕物全集」（1956年～1958年）のみです。それ以外のものは、不完全な全集または選集となっています。2023年現在、現役で流通しているのは創元推理文庫の『櫛の文字』など、一部の作品のみです。しかし、繰り返し出版されていたため、古書店などで入手することは比較的容易です。また、野村胡堂の作品は没後50年を経過しパブリックドメインとなったため、電子書籍化されたものも存在します。

著名人からの高い評価

『銭形平次捕物控』は、多くの著名人に愛読されていることでも知られています。吉田茂が愛読者であったことは特に有名で、米内光政、武者小路実篤、中谷宇吉郎、吉田洋一、木村義雄なども愛読者でした。司馬遼太郎は「街道をゆく」の中で、本作の魅力を「叙述がすずやかで、すだれごしに上等な夏の料理をたべているような気がした」と評しています。

一方で、同時代の推理小説家からは低い評価を受けることもありました。江戸川乱歩、木々高太郎、松本清張などは、捕物帳を推理小説と認めない見解を示し、論争を巻き起こしたこともありました。

多様なメディア展開

高い人気を誇る『銭形平次捕物控』は、原作小説以外にも、映画、テレビドラマ、ラジオドラマなど、様々なメディアで展開されてきました。

映画

1931年の関操主演作を皮切りに、嵐寛寿郎、二代目市川猿之助、長谷川一夫、大川橋蔵など、多くの名優が銭形平次を演じています。特に長谷川一夫主演作品は人気が高く、シリーズ化され、18本もの作品が制作されました。

テレビドラマ

テレビドラマシリーズも数多く制作されており、若山富三郎、安井昌二、大川橋蔵、風間杜夫、北大路欣也、村上弘明など、錚々たる俳優陣が平次を演じています。

ラジオドラマ

ラジオドラマも人気を博し、文化放送で放送された国友忠版は、週6日放送で5年以上続いた、現在もラジオドラマ最長記録とされる長寿番組となりました。

銭形平次をモチーフにした作品

『銭形平次捕物控』の人気は、様々な作品に影響を与えています。『ルパン三世』の銭形警部は銭形平次の子孫という設定であり、『もーれつア太郎』や『B型平次捕物帳』といったパロディ作品も存在します。ゲーム作品にも登場し、その影響の広さを物語っています。

まとめ

『銭形平次捕物控』は、時代劇、推理小説という枠を超えて、多くの人々に愛され続けている作品です。その魅力は、巧みなストーリー展開、個性的な登場人物、そして時代を超えた普遍的なテーマにあると言えるでしょう。今後も、様々な形で人々に楽しませ、その名を残していくことでしょう。

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