阿倍仲麻呂

阿倍仲麻呂：唐に生きた遣唐使の波瀾万丈な生涯

阿倍仲麻呂(698年-770年)は、奈良時代を代表する遣唐使であり、優れた文人としても知られています。大和国に生まれ、若くしてその才能を認められた彼は、717年、遣唐使の一員として唐へ渡りました。長安での勉学の後、科挙に合格、あるいは有力者の推薦を受けた彼は、唐の玄宗皇帝に仕え、華々しい経歴を歩むことになります。

唐での活躍と帰国への願い

仲麻呂は、長安で太学で学び、その後、司経局校書、左拾遺、左補闕といった要職を歴任しました。文学に秀でた彼は、李白や王維といった当時の著名な詩人たちと交流し、その才能は唐の文壇でも高く評価されました。『全唐詩』には、仲麻呂を詠んだ唐詩人の作品も数多く残されています。

しかし、輝かしいキャリアの裏には、祖国への強い想いが隠されていました。幾度となく帰国を願い出ますが、唐での地位や、帰路の危険性から、容易には叶いませんでした。天平勝宝4年(752年)、帰国を許されそうになったものの、暴風雨に見舞われ漂流、安南に漂着するなど、帰国の道は困難を極めました。安禄山の乱など、時代の大きな変化も帰国を阻む要因となりました。

望郷の念と不朽の和歌

仲麻呂の代表作として知られるのは、「天の原 ふりさけみれば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも」という和歌です。これは、帰国を目前にして詠まれたと伝えられ、小倉百人一首にも選ばれています。この歌は、故郷への深い想いと、漂泊の運命を暗示するような、切ない情感が込められています。しかし、この歌の成立には諸説あり、紀貫之による創作とする説も存在します。

また、仲麻呂は多くの漢詩も残しており、『全唐詩』に収められている「銜命還国作」は、王維の送別詩への返歌として有名です。これらの作品は、仲麻呂の優れた文学的才能と、祖国への揺るぎない想いを後世に伝えています。

没後と評価

仲麻呂は、唐で770年、73歳で亡くなりました。その功績を認められ、代宗皇帝から潞州大都督の官名が贈られました。『続日本紀』には、「わが朝の学生にして名を唐国にあげる者は、ただ大臣および朝衡の二人のみ」と記され、その高い評価がわかります。

様々な解釈と伝説

仲麻呂の生涯については、史実と伝説が混在しています。科挙に合格したという記述もありますが、その信憑性については議論があります。また、『江談抄』などの文献には、仲麻呂が鬼となって『金烏玉兎集』を求めるといった伝説も伝えられています。これらは、仲麻呂の優れた才能と、異国での波瀾万丈な人生を象徴するエピソードと言えるでしょう。

後世への影響

阿倍仲麻呂は、遣唐使として、また文人として、日本と唐の文化交流に大きく貢献しました。彼の生涯は、小説やオペラ、映画など、数多くの作品に取り上げられ、現代においても人々の関心を集めています。中国の西安市や奈良市には、仲麻呂を記念した碑が建立されており、日中の友好の象徴となっています。彼の生涯は、異国の地で活躍した一人の日本人、そして故郷を思い続けた一人の人間の物語として、永遠に語り継がれていくことでしょう。

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