鹿島臨海工業地帯

鹿島臨海工業地帯の概要

茨城県の東南部に位置する鹿島臨海工業地帯は、鹿嶋市と神栖市にまたがる広大な産業地域です。この地域は、鹿島灘に面し、人工的に掘り込まれた工業港である鹿島港を中心として形成されています。鉄鋼業や石油化学工業、そして発電所などが集積しており、約180の企業が活動し、2万2000人を超える従業員が働く、茨城県内で最大の工業地帯として重要な役割を担っています。

鹿島港を核とした工業用地は、鹿嶋市の高松地区や北海浜地区、神栖市の神之池東部地区（東部地区）、南海浜地区、奥野谷浜工業団地、神之池西部地区（西部地区）、さらには砂山地区の波崎地域にまで広がっています。鹿嶋市側には主に日本製鉄の製鉄所やその関連企業が集積している一方、神栖市側では石油化学や飼料関連の工場、多くの火力発電所や風力発電所が立地しています。物資輸送においては、JR鹿島線の鹿島サッカースタジアム駅と接続する貨物専用の鹿島臨海鉄道鹿島臨港線が利用されています。

開発の歴史

鹿島臨海工業地帯の開発は、戦後間もない時期から構想が温められていました。本格的な動きは、1959年に当時の茨城県知事であった岩上二郎氏が「後進県からの脱却」を政策目標に掲げたことから始まります。生産性が低かった砂丘地帯の農業収入を高めつつ、工場を誘致して非農業所得を増やすことで、県民所得の向上を図る壮大な計画でした。

1960年には「工場誘致条例」が制定され、「鹿島灘沿岸地域総合開発構想」の試案が発表されました。翌1961年には、茨城県が「鹿島臨海工業地帯造成計画」（マスタープラン）を策定。この計画は、鹿島工業港の建設と霞ヶ浦からの工業用水確保を核とし、約4,000ヘクタールの工業用地造成、交通網整備、そして数千ヘクタールの居住地開発を通じて、鉄鋼、石油、化学、機械などの産業が複合する近代的な臨海工業地帯と機能的な都市を一体的に形成するというものでした。

1963年に工業整備特別地域に指定され、国の全国総合開発計画における拠点開発方式の具体例として事業は加速。30万都市の創設を目指すこの国家的な巨大開発プロジェクトは、「農工両全」「貧困からの解放」をスローガンに進められました。計画はタンカーの大型化に対応するため鹿島港の規模が拡大されるなど、何度か変更されました。

用地取得は1964年に開始されましたが、工業地帯予定地には民有地が多く、その買収が最大の課題でした。県は、地権者が土地の4割を提供し、残りの6割を代替地に移転するという鹿島独自の「6・4方式」を考案。地元地権者の理解と協力により、用地取得は進み、1968年3月末までに目標面積の約8割が確保されました。

主要企業の進出も具体化し、1967年には23社の立地が決定。1969年4月には住友金属鹿島製鉄所（現・日本製鉄東日本製鉄所鹿島地区）が操業を開始し、同年10月には鹿島港も開港しました。1971年には神之池東部地区の石油化学関連企業が操業を開始し、鉄鋼・石油コンビナートとしての基盤が確立しました。1973年末には工業団地造成事業の工事完了が公告され、1984年には茨城県による開発収束宣言が出されました。

東日本大震災の影響

2011年3月11日の東日本大震災では、揺れ、津波、液状化現象により鹿島臨海工業地帯は甚大な被害を受けました。鹿島港の港湾施設が損壊し、各工場の設備も大きなダメージを受けたため、震災直後は多くの企業が操業停止に追い込まれましたが、その後復旧が進められました。

開発計画当初の目標人口30万人には達していませんが、2020年10月時点での鹿嶋市と神栖市の合計人口は約16万人となっています。

開発を支えた組織

「鹿島開発」における用地取得業務を担ったのが、1962年に設立された鹿島臨海工業地帯開発組合でした。茨城県と地元3町村（鹿島町、神栖村、波崎町）が出資したこの組合は、港湾予定地、工業用地、住宅団地、代替地など、約5,000ヘクタールもの広大な土地を取得することを目的としていました。用地取得は1964年から始まり、前述の「6・4方式」が採用されました。用地提供への反対も根強く、当時の組合職員は困難な交渉にあたったといわれています。ピーク時には約600人が勤務した開発組合は、開発収束に伴い1984年に解散しました。

鹿島臨海工業地帯