あなたのブルース

「あなたのブルース」は、歌手 矢吹健（やぶきけん）が、1968年（昭和43年）6月1日に世に送り出した最初のシングル盤、およびそのA面に収められた楽曲のタイトルです。この作品は、矢吹健のキャリアをスタートさせた記念碑的な一枚となりました。

概要

本作は、ユニオンレコードから発売されたオリジナル楽曲によるシングルレコードです。レコード番号はUS-582-J、発売当時の価格は370円でした。A面曲「あなたのブルース」と、カップリングであるB面曲「忘れないよ」（わすれないよ）は、いずれも作詞、作曲、そして編曲を 藤本卓也（ふじもとたくや）が担当しています。藤本は本作だけでなく、矢吹の後のヒット曲も多く手掛けることになります。

A面を飾る表題曲は、かつて水原弘の「黒い花びら」などが切り拓いた流れを汲む、情緒豊かな3連の拍子を持つバラードです。特に、矢吹健の表現力豊かな歌声は「ミスティ・ヴォイス」と称され、その独特な響きと、楽曲に彩りを添える女声コーラスが相まって、聴く者に強い印象を与えました。その音楽性から、ロッカーバラードとも分類されることがあります。

このシングルは発売と同時に大きな反響を呼び、矢吹健はこの年、数々の栄誉に輝きました。同年、東京厚生年金会館で開催された、新進気鋭の歌手に焦点を当てた 第1回新宿音楽祭 では、はつみかんな（後のしばたはつみ）や久保内成幸とロマネスクセブンらと共に、最高位である金賞を受賞しました。さらに、12月1日に行われた 第1回日本有線大賞 では、「恋の季節」でその年を席巻したピンキーとキラーズと共に 新人賞 を獲得。同月21日、渋谷公会堂にて催された 第10回日本レコード大賞 においても、「くちづけが怖い」の久美かおり、「恋の季節」のピンキーとキラーズとともに、男性部門の 新人賞 を受賞するなど、主要な音楽賞を総なめにし、その実力と人気の高さを証明しました。

商業的にも本作は驚異的な成功を収め、その累計売上は 150万枚 という大台に到達しました。これは当時の歌謡曲としては異例の数字であり、矢吹健を一躍スターダムへと押し上げました。

アルバム収録

1969年（昭和44年）には、本作のA面曲およびB面曲は、セカンドシングルに収められた「蒸発のブルース」や「うしろ姿」といった楽曲と共に、矢吹健にとって初のオリジナルアルバムとなる『あなたのブルース』に収められました。また、時代が下り、矢吹健によるオリジナル音源は、通販限定で販売された複数のCDボックス企画盤にもセレクトされています。例えば、2006年（平成18年）6月1日にリリースされた『歌心流行歌120選』や、同年登場の『演歌の頂天』、そして2008年（平成20年）2月に発売された『魅惑のムード歌謡デラックス』といった作品集にも、その歌声が収められています。

収録曲

このシングルには、以下の2曲が収められています。いずれの楽曲も、前述の通り作詞、作曲、編曲のすべてを藤本卓也が一貫して手掛けています。

あなたのブルース（演奏時間: 3分57秒）
忘れないよ（演奏時間: 3分27秒）

カバー

「あなたのブルース」は、その人気と楽曲の持つ魅力から、多くの歌手によってカバーされています。代表的なものとしては、1970年（昭和45年）3月5日に藤圭子が日本ビクターからリリースしたファーストアルバム『新宿の女 - “演歌の星”藤圭子のすべて』に収録されたバージョンが挙げられます。このアルバムは、LPチャートで20週連続1位を獲得するなど、藤圭子の初期を代表する作品となりました。

また、1971年（昭和46年）7月に、本作と同じく藤本卓也が作詞・作曲を担当したシングル「稚内ブルース」でキングレコードからデビューした 原みつるとシャネル・ファイブ も、同年発表したファーストアルバム『稚内ブルース』の中で本作をカバーしています。この際の編曲は、彼らのデビューシングル「稚内ブルース」の編曲も手掛けた船木謙一が担当しており、矢吹健の「うしろ姿」も同時にカバーされています。

この他にも、日本を代表する多くの実力派歌手たちが「あなたのブルース」を歌い継いでいます。主なカバーアーティストには、森進一、鶴岡雅義と東京ロマンチカ、天童よしみ、吉幾三、八代亜紀、バッキー白片とアロハ・ハワイアンズ、氷川きよしなどが名を連ねており、それぞれの解釈でこの名曲に新たな息吹を与えています。

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