アクシス:ボールド・アズ・ラヴ

『アクシス:ボールド・アズ・ラヴ』：進化を続ける実験精神とメロディの彩り

1967年、世界に衝撃を与えたデビュー・アルバム『アー・ユー・エクスペリエンスト?』からわずか半年ほどの間隔で、ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンンスは早くもセカンド・スタジオ作品、『アクシス:ボールド・アズ・ラヴ』を世に送り出しました。このアルバムは、前作で確立した革新的なギター・サウンドとバンド・アンサンブルを基盤に、さらなる音楽的探求と進化の試みが随所に感じられる意欲作です。その重要性は現在も色褪せず、『ローリング・ストーン』誌が選定した「オールタイム・グレイテスト・アルバム」では83位に位置付けられています。

本作の音楽性について特筆すべき点は、前作と比較してよりメロディ豊かな楽曲が増えたことです。中でも「リトル・ウィング」は、ジミ・ヘンドリックスの書いた楽曲の中でも特に美しく、情感あふれる名曲として知られています。繊細かつ表情豊かなギター・プレイが印象的なこのバラードは、発表以来、数多くのミュージシャンによってカヴァーされてきました。デレク・アンド・ザ・ドミノス、スティーヴィー・レイ・ヴォーン、スティングといった幅広いジャンルの著名アーティストたちがこの曲を取り上げており、その普遍的な魅力と後世への影響力の大きさを物語っています。

一方で、『アクシス:ボールド・アズ・ラヴ』は、サウンドに対する大胆な実験精神も発揮されています。アルバム冒頭に配置されたSEトラック「放送局EXP」は、ラジオの選局ノイズや様々な音源をコラージュした先駆的な試みです。また、タイトル曲「ボールド・アズ・ラヴ」におけるギター・ソロでは、当時まだ珍しかったフェイザー効果を大胆に導入しており、サイケデリックなサウンドスケープを描き出しています。このフェイザーの使用に関しては、先行して同エフェクトを取り入れたスモール・フェイセスの楽曲「イチクー・パーク」が参考にされたと言われています。さらに、レコーディング中の興味深いエピソードとして、ジミがエンジニアに求める音のイメージを伝える際に、聴覚的な表現だけでなく「赤」や「青」といった色の名前を用いていたという話も伝えられており、彼の独特な感性と既成概念に捉われないアプローチがうかがえます。

アルバムに収録された楽曲の多くは、その後のライブでも重要なレパートリーとなりました。「スパニッシュ・キャッスル・マジック」は、ウッドストックやワイト島といった伝説的な大規模フェスティバルでも演奏され、観客を熱狂させました。「リトル・ウィング」もまたライブで頻繁に演奏されており、1969年のロイヤル・アルバート・ホール公演やサンフランシスコ・ウィンターランドでのパフォーマンスは音源として残されています。「明日まで待って」や「リトル・ミス・ラヴァー」なども、BBCでの貴重なライブ録音が公式にリリースされています。

本作の制作過程には、ハプニングも伴いました。完成直前になって、アルバムのサイド1となるマスターテープを紛失するという前代未聞の事態が発生したのです。しかし、バンドと制作スタッフは諦めることなく、一晩のうちにテープを再構成し、ミックスをやり直すという驚異的なスピードで作業を遂行し、アルバムを無事完成させました。この緊迫した状況が、作品の持つ独特のエネルギーの一部となっているのかもしれません。

『アクシス:ボールド・アズ・ラヴ』のリリースは、オリジナルのモノラル・ミックス盤とステレオ・ミックス盤が同時に行われました。その後、特にステレオ・ミックスに関してはいくつかのバージョンが存在します。1970年に英国で発売された廉価盤「Backtrack 11」に収録されたステレオ・ミックスは、欧州や日本で最初にCD化された際にも使用されました。しかし、1991年に行われた大規模なリマスター再発以降は、よりオリジナルに近いとされるステレオ・ミックスが採用されるようになり、現在の標準的なバージョンとなっています。オリジナルのモノラル・ミックス盤は、2000年に米国のClassic Recordsからアナログレコードとして限定的に再発売されました。

アルバムは全13曲で構成されており、「シーズ・ソー・ファイン」のみがベーシストのノエル・レディングの作曲であり、それ以外の12曲はすべてジミ・ヘンドリックス自身が手掛けています。参加ミュージシャンは、ジミ・ヘンドリックス（ギター、ボーカル、さらに一部でベース、ピアノ、フルートも担当）、ノエル・レディング（ベース、ボーカル）、ミッチ・ミッチェル（ドラムス、グロッケンシュピール、ナレーション）という核となる3人に加え、「フローティング」ではザ・ムーヴ～ELOなどで知られるロイ・ウッドと、そのバンドメイトだったトレヴァー・バートンがバック・ボーカルとしてゲスト参加しています。

本作に収録された楽曲は、後世のミュージシャンに多大なインスピレーションを与えています。「空より高く」と「砂のお城」は、ジャズ界の巨匠ギル・エヴァンスが自身のオーケストラでカヴァーし、新たな解釈を加えました。「スパニッシュ・キャッスル・マジック」は、テクニカルなギター・プレイで知られるイングヴェイ・マルムスティーンがライブやカヴァー・アルバムで頻繁に取り上げています。「明日まで待って」は、ブラジル音楽界の重鎮であるカエターノ・ヴェローゾとジルベルト・ジルがコラボレーション・アルバムでカヴァー。「もしも もしも」は、トッド・ラングレンが自身のアルバムで取り上げました。「砂のお城」は、レッド・ホット・チリ・ペッパーズがライブで演奏した音源が公式にリリースされ、後にアルバムのボーナス・トラックとしても追加されました。「雨を望めば」は、クイーンのブライアン・メイがソロ・アルバムでカヴァーしています。そして、タイトル曲「ボールド・アズ・ラヴ」は、現代のギタリスト、ジョン・メイヤーによってカヴァーされ、改めてその魅力が再認識されました。

『アクシス:ボールド・アズ・ラヴ』は、発表当時におけるサウンドの革新性と、時代を超えて聴き継がれるメロディの豊かさ、そして数多くの後続アーティストに影響を与えた楽曲群によって、ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンンスのクリエイティビティがいかに多様であったかを示す重要な作品です。実験精神と音楽的洗練が見事に融合したこのアルバムは、ロックという音楽ジャンルの可能性をさらに広げた傑作として、今もなお輝きを放っています。

もう一度検索