アコウ (植物)

アコウ（赤榕・赤秀・雀榕）

アコウは、クワ科イチジク属に属する半常緑の高木で、学名を Ficus superba var. japonica といいます。ただし、Ficus subpisocarpaとする説もあります。この木は、葉を乾燥させて焼くと良い香りがすることから、別名「沈香木（じんこうぼく）」とも呼ばれています。

分布と生育環境

アコウは、日本では紀伊半島南部、山口県、四国南部、九州、南西諸島などの温暖な地域に分布しています。海外では、台湾、中国南部沿岸、東南アジアなどにも見られます。主な生育地は暖地の海岸沿いで、特に低地に多く自生し、琉球諸島では石灰岩地でも生育しています。

特徴

アコウは、常緑広葉樹の高木で、樹高は10～20メートル、幹の直径は1メートルほどに成長します。特徴的なのは、その樹形です。高さに対して横にも大きく広がり、幹や枝から多数の気根を垂らします。この気根は、岩や露頭に張り付くように成長し、木を支える役割を果たします。

春には新芽が赤く色づき、美しい姿を見せてくれます。葉は互生し、やや細長い楕円形で、表面は滑らかで光沢はあまりありません。大きさは10～15センチ[[メートル]]ほどで、革質で全縁です。葉柄は長く、3月から4月頃に新葉を出す前に一度落葉しますが、その時期は一定ではなく、同じ木でも枝によって異なる場合があります。また、年に2回落葉するという記述もあります。

花は5月頃に咲き、イチジクに似た形状の小型の隠頭花序を、幹や枝から直接出た短い柄に付けます。果実はイチジク状で、赤く熟すと食用になります。

アコウの種子は鳥によって運ばれ、他の木に着生して発芽することがあります。成長すると気根で親木を覆い尽くし、枯らしてしまうこともあるため、「絞め殺しの木」とも呼ばれます。これは、熱帯雨林などの樹高の高い場所で、素早く日光が当たる環境を得るための特性です。琉球諸島では、他の植物が生育しにくい石灰岩地の岩場や露頭に、気根を利用して着生し生育しています。

冬芽は鱗芽で、2枚の芽鱗に包まれています。頂芽は丸みのある円錐形で、側芽は卵形で葉腋につきます。葉痕は半円形や楕円形で、維管束痕が弧状に並びます。

利用

アコウは、防風樹、防潮樹、街路樹として利用されています。沖縄県や鹿児島県奄美群島では、防風のために家の周りに植えられ、屋敷林としても活用されています。また、日本では、天然記念物に指定されている巨木や古木が多く存在します。さらに、ガジュマルに比べて耐寒性が高いことから、観葉植物としても利用されています。

材は、家具や器具の材料として用いられることがあります。

保護上の位置づけ

アコウは、その貴重さから、日本各地で天然記念物に指定されています。以下に主な例を挙げます。

国の天然記念物

本州及び九州の巨樹、分布北限地及びその付近
三崎のアコウ（愛媛県西宇和郡伊方町）
弁天島熱帯性植物群落（徳島県阿南市弁天島）
松尾のアコウ自生地（高知県土佐清水市松尾）
高串アコウ自生北限地帯（佐賀県唐津市）
奈良尾のアコウ（長崎県南松浦郡新上五島町）
内海のアコウ（宮崎県宮崎市）

地方自治体指定の天然記念物

龍王神社のアコウ（和歌山県日高郡美浜町三尾）
室戸のアコウ（高知県室戸市）
垂水のアコウ（鹿児島県垂水市）
指宿報国神社のアコウ（信楽寺のアコウ）（鹿児島県指宿市西方）

地方公共団体のレッドデータブック

和歌山県：準絶滅危惧
山口県：絶滅危惧IB類
佐賀県：準絶滅危惧種

重要文化的景観および世界遺産

黒島（長崎県佐世保市）：アコウを利用した防風林の景観が重要文化的景観に選定され、世界遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産として登録されています。

その他

五人番のアコウ（鹿児島県指宿市湊）：かつて海岸に自生していましたが、台風で倒れた後、移植されました。

脚注

参考文献

小山洋二『巨樹・巨木図鑑：一度は訪れたい、全国の大樹たち』日本文芸社、2024年3月1日。ISBN 978-4-537-22193-0。
鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽：四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年10月10日、187頁。ISBN 978-4-416-61438-9。
高橋弘『巨樹・巨木をたずねて』新日本出版社、2008年10月25日。ISBN 978-4-406-05175-0。
高橋弘『日本の巨樹：1000年を生きる神秘』宝島社、2014年8月21日。ISBN 978-4-8002-2942-7。
辻井達一『日本の樹木』中央公論社〈中公新書〉、1995年4月25日、140-142頁。ISBN 4-12-101238-0。
土屋誠・宮城康一 共編『南の島の自然観察 : 沖縄の身近な生き物と友だちになろう』東海大学出版会、1991年7月、100-101頁。ISBN 4-486-01159-7。
平野隆久監修 永岡書店編『樹木ガイドブック』永岡書店、1997年5月10日、236頁。ISBN 4-522-21557-6。
多和田真淳監修・池原直樹著 『沖縄植物野外活用図鑑 第6巻 山地の植物』 新星図書出版、1979年、29頁。
山口県『レッドデータブックやまぐち 山口県の絶滅のおそれのある野生生物』2002年。
佐賀県『絶滅のおそれのある野生動植物レッドデータブックさが』2003年。
加藤陸奥雄・沼田眞・渡部景隆・畑正憲監修『日本の天然記念物』講談社、1995年3月20日、1101頁、ISBN 4-06-180589-4。

関連項目

木の一覧
ガジュマル

外部リンク

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