アデノウイルス

アデノウイルスについて

アデノウイルスは、直径約80nmの正20面体構造を持つ、エンベロープを持たない二重鎖DNA[[ウイルス]]です。このウイルスは、感染性胃腸炎や風邪症候群の主要な原因の一つとして知られています。51種類の血清型と、52型以降の遺伝型があり、AからGまでの7つの種に分類されています。

アデノウイルスのゲノム構造

アデノウイルスのゲノムは、二重鎖の直鎖状DNAで構成されており、その両端の5'末端にはTPタンパク質が共有結合しています。このTPタンパク質は、DNA複製の際のプライマーとして機能します。ゲノムの長さは26-46kbpで、23-46個のタンパク質コード遺伝子を含んでいます。これらの構造や機能は、全てのアデノウイルスに共通しています。

転写単位

ヒトアデノウイルスEには17個の転写単位があり、それぞれが1〜8個のタンパク質遺伝子を含んでいます。また、選択的スプライシングによって複数の異なるmRNAが生成されることもあります。ウイルスの増殖初期には、E1A、E1B、E2A、E2B、E3、E4の転写単位が順次転写され、これらの遺伝子から作られるタンパク質は、主にウイルスゲノムの複製や転写の制御、そして宿主の感染応答の抑制に関与します。増殖後期には、L1からL5の転写単位が転写され、ウイルスのカプシド形成に関わるタンパク質が作られます。

アデノウイルスのタンパク質

アデノウイルスのタンパク質は、構造タンパク質、カプシド形成に関わるタンパク質、酵素、転写活性化因子、アポトーシス抑制タンパク質、免疫応答調節タンパク質など多岐にわたります。

主なタンパク質の機能は以下の通りです。

構造タンパク質: II, III, IIIa, IV, VI, VIII, IX (カプシド)、V, VII, X (コア)、末端タンパク質TP
カプシド形成: IVa2, 52K, L1, 100K
プロテアーゼ: L3プロテアーゼは前駆体タンパク質pTP, pVI, pVII, pVIII, pIIIaを切断
転写活性化因子: E1A
アポトーシス抑制: E1B 19K (宿主Bcl-2タンパク質のミミック)、E1B 55K (宿主p53結合)
DNA複製: E2AおよびE2B転写単位のタンパク質
免疫応答調節: E3 RIDαおよびβ (膜タンパク質)、CR1β (糖鎖修飾膜タンパク質)、E3 gp19K (MHCクラスIタンパク質挿入阻害)、E3 14.7K (宿主抗ウイルス応答防御)
転写調節: E4転写単位のタンパク質群

ウイルスの増殖

アデノウイルスは、B種以外ではCARタンパク質をレセプターとして宿主細胞に侵入します。E1Aの転写をきっかけに、初期遺伝子が活性化され、ウイルスのDNAポリメラーゼやDNA結合タンパク質、アポトーシス抑制物質が合成されます。E1Aは、細胞をウイルスDNA複製に適したS期に誘導し、その後ウイルスDNAの複製が開始され、後期遺伝子が発現してカプシドなどが合成され、成熟したウイルスとなります。

アデノウイルス感染症

アデノウイルスは、様々な感染症を引き起こし、潜伏期間は5〜7日程度です。主な感染経路は、便、飛沫、直接接触です。

主な感染症の種類は以下の通りです。

肺炎・脳炎: 特に3型と7型が原因で、7型は重症化しやすく、乳幼児では髄膜炎や心筋炎を併発することがあります。
咽頭結膜熱（プール熱）: 3型と4型が主な原因で、高熱、咽頭痛、結膜炎を伴います。プールを介して流行することがありますが、飛沫や糞便からも感染します。
[流行性角結膜炎]: 8、19、37型が主な原因でしたが、近年では53、54、56型が増加しています。結膜炎が主な症状で、角膜炎を併発することもあります。
出血性膀胱炎: 主に11型が原因で、排尿痛と血尿が見られます。
急性濾胞性結膜炎: 1、2、3、4、6、7型が原因で、目の痛み、羞明、目やにが見られます。
胃腸炎: 31、40、41型が原因で、発熱、腹痛、嘔吐、下痢を伴います。乳幼児に多い感染症です。

感染対策

アデノウイルスは消毒剤に抵抗性があるため、塩素消毒が有効です。感染予防には、手袋、マスク、眼鏡の使用が推奨されます。手指消毒には石けんとアルコール消毒剤の併用が有効です。器具類は高圧蒸気滅菌やエチレンガス滅菌が有効で、滅菌できないものはグルタルアルデヒドや次亜塩素酸ナトリウムなどで消毒します。リネン類は高温洗濯や次亜塩素酸ナトリウム消毒が有効です。患者が触れた箇所はアルコール消毒剤での二度拭きが推奨されます。

遺伝子治療・ワクチンへの利用

アデノウイルスは遺伝子治療のベクターとしても用いられます。特に、外来遺伝子を導入するベクターとして使用され、癌や単一遺伝子疾患の治療に利用されています。また、ワクチンのベクターとしても利用されており、COVID-19ワクチンの一部では、アデノウイルスがSARS-CoV-2の表面タンパク質の遺伝子を輸送する役割を果たしています。ただし、ベクター自体への免疫反応が課題となっています。

まとめ

アデノウイルスは、様々な感染症を引き起こす一般的なウイルスですが、その特性を理解し適切な感染対策を行うことで、感染拡大を防ぐことが重要です。また、遺伝子治療やワクチン開発におけるアデノウイルスの利用は、今後の医学の発展に大きく貢献することが期待されます。

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