アリタリア航空771便墜落事故

1962年 7月8日未明、インドで発生したアリタリア航空771便の墜落事故は、94名全員が死亡するという悲劇的な結末を迎えました。この事故は、シドニー発ローマ行きの定期便が、ボンベイ（現在のムンバイ）近郊で墜落したものです。

事故の概要

事故が発生したのは、1962年 7月8日の午前0時10分（UTC 7月7日18時40分）頃。アリタリア航空771便は、シドニーからダーウィン、バンコク、ボンベイ、カラチ、テヘランを経由してローマへ向かう定期便でした。

事故機は、ダグラスDC-8-43（機体記号：I-DIWD）で、1962年に製造されたばかりの新機材でした。総飛行時間は964時間と比較的短く、機体の整備状況も良好で、事故の2日前には機長が整備証明書に署名していました。

機体にはVHF受信機、計器着陸装置、マーカービーコン受信機、ADF受信機、LORAN受信機、ドップラーレーダー、トランスポンダなどの先進的な航法装置が搭載されていましたが、フライトレコーダー（ブラックボックス）は搭載されていませんでした。

搭乗員

771便には、乗員9名が搭乗していました。

機長：50歳の男性パイロットで、総飛行時間は13,700時間。DC-8の飛行時間は1,396時間。過去にローマ-ムンバイ間のルートを飛行経験がありましたが、バンコクまでは操縦していませんでした。機長昇格に必要な慣熟飛行はテヘラン、カラチ、ムンバイ経由で行っていました。
副操縦士：33歳の男性パイロットで、総飛行時間は3,480時間。DC-8の副操縦士としての飛行時間は1,672時間。
航空機関士：31歳の男性で、総飛行時間は4,070時間。DC-8による飛行時間は386時間。

機長と副操縦士は航法に精通していましたが、専門の航空士は搭乗していませんでした。残りの6名は客室乗務員でした。

事故の経緯

771便は、シドニーを出発後、ダーウィンで乗客を乗せ、バンコクのドンムアン空港を94名の乗客乗員を乗せて出発しました。この際、フライトプランには機長の署名がされておらず、アリタリア航空の運用マニュアルに違反した状態でした。

22時50分に771便はボンベイのFICに最初のコンタクトを行い、ボンベイの天気予報の確認と0時15分頃の着陸予定、そして高度36,000フィート (11,000m) で巡航していることを報告しました。23時00分から17分の間に、クルーは地上の気象情報を受け取りましたが、雷雨などの悪天候の報告はありませんでした。

23時50分、771便はボンベイの進入管制にコンタクトし、アウランガーバード上空で20,000フィート (6,100m)への降下を開始しました。

23時54分36秒、771便は35,000 - 20,000フィート (10,700 - 6,100m)への降下を開始し、23時55分には4,000フィート (1,200m)への降下が許可されました。23時58分04秒に天候情報とQNH（海面気圧）が29.58インチであると伝えられ、23時59分にはクルーは管制官に対しRWY27への着陸を希望しました。

日付が変わり7月8日の0時08分34秒、管制側は771便にビーコン上空で旋回待機するかそのまま着陸するかを尋ねました。クルーは0時08分49秒に「OK」とだけ返答し、アプローチ方法を明確にしませんでしたが、その後すぐにアウタービーコン上空で旋回すると伝えました。

771便は0時08分54秒には高度5,000フィートまで降下していましたが、アリタリア航空のフライトプランでは、13分かけて100マイル (160km)を降下することになっていました。771便は最低安全高度の9,000フィート (2,700m)や、最低進入高度の4,000フィート (1,200m)を大幅に下回る3,600フィート (1,100m)まで高度を下げました。

最後の交信は0時09分58秒に行われ、ビーコン上空を旋回することを確認するものでした。その後、771便はDavandyachi丘に240度の角度で墜落し、機体は完全に破壊されました。コックピットの高度計は、丘の頂上からわずか5フィート (1.5m)下の3,600フィート (1,100m)で止まっていました。乗員乗客全員が犠牲になりました。

事故原因

事故調査では、航法エラーにより、パイロットが実際より近い場所にいると誤認した可能性、推奨安全高度を維持しなかったこと、パイロットがルートに不慣れだったことなどが検討されました。パイロットの飲酒も当初は疑われましたが、後に否定されました。

調査の結果、パイロットが航法エラーにより、本来降下すべきでない地点で降下し、CFIT（Controlled Flight Into Terrain：操縦可能な航空機が地形に衝突する事故）を引き起こしたと結論付けられました。

ICAO（国際民間航空機関）は、以下の要因を副次的な要因として指摘しました。

パイロットが利用可能な航法設備を使用せず、機体の正確な位置を把握できなかった。
最低安全高度を無視した。
事故現場周辺の地形に不慣れであった。

外部リンク

事故機のボイスレコーダーの文字起こし

もう一度検索

アリタリア航空771便墜落事故