アリー・ハーディー

アリー・ハーディー：シーア派第10代イマームの生涯

アリー・ハーディーは、シーア派イスラム教において重要な役割を担った第10代イマームです。828年、マディーナで9代イマーム、ムハンマド・タキーとモロッコ出身の奴隷女性サマーナとの間に生まれました。わずか6歳でイマームの地位を継承した彼は、アッバース朝カリフ、ムウタスィムとワースィクの治世下では比較的平穏な日々を過ごし、教育に励みました。

しかし、ムタワッキルがカリフとなると状況が一変します。848年、アリー・ハーディーは息子ハサン・アスカリーと共にバグダードに召還され、サーマッラーにて軟禁生活を余儀なくされました。鄭重な扱いを受けた一方で、外部との接触は制限され、事実上の幽閉状態にあったのです。この時代は、シーア派に対する大規模な迫害が展開された時期と重なります。

アリー・ハーディーが軟禁されたサーマッラーの地区は「アル＝アスカル」と呼ばれていました。これは、この地区に軍隊が駐留していたことに由来し、アリー・ハーディーと息子ハサンは「アスカリー」という称号で呼ばれることになります。この地名は、後に彼らを祀るアスカリー・モスクの名前にも継承されています。

ムタワッキルはアリー・ハーディーの暗殺をも企てたと言われますが、それは成功しませんでした。アリー・ハーディーは、ペルシア語、スラブ語、インドの言語、ナバタイ語など、幅広い言語に通じていたと伝えられています。さらに、嵐や人の死など、未来を予言する能力があったとされています。

有名な逸話として、ムタワッキルがアリー・ハーディーを辱め、獄に落とした際、アリー・ハーディーはカリフを呪い、3日以内に死亡すると予言しました。そして、その予言は現実のものとなったと伝えられています。また、イマーム・フサインの娘ザイナブを詐称する女性が現れた際、アリー・ハーディーはライオンの巣に降りて、ライオンがアリーの子孫を襲わないことを証明し、女性の偽りを暴いたという伝説も残されています。

アリー・ハーディーは、人間の自由意志に関する宗教論文などの短いテキストを残しており、ハッラーニーの著作に引用されています。彼の言葉として、「現世では財産を持つことで、来世では善行を保持することで人々は尊敬される」という言葉が残されています。これは、物質的な豊かさだけでなく、精神的な豊かさの重要性を説いた言葉と言えるでしょう。

868年7月1日、アリー・ハーディーは39歳で、軟禁生活の中で生涯を終えました。父祖と同じく、毒殺されたと言われています。彼の遺体は息子ハサン・アスカリーによってサーマッラーに埋葬されました。葬儀には、ハサン・アスカリーただ一人しか参列しなかったという悲しい物語も伝えられています。

アリー・ハーディーの埋葬地であるアスカリー・モスクは、シーア派にとって重要な聖地であり、サーマッラーは聖廟都市の一つに数えられています。しかしながら、2006年には爆破事件により大きな被害を受けました。アリー・ハーディーの生涯は、シーア派の歴史において重要な位置を占め、彼の知性と霊性、そして悲劇的な最期は、現在も人々の記憶に深く刻まれています。彼の生き様は、信仰と試練、そして未来への希望を象徴する存在として、多くの人々に語り継がれています。

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