ムハンマド・タキー

ムハンマド・タキーとは

ムハンマド・タキー（811年4月12日 - 835年11月29日）は、シーア派・12イマーム派（イスナー・アシュアリー）における第9代イマームです。ムハンマド・イブン・アリー・イブン・ムーサーという名でも知られ、「ジャワード（豊穣なるもの）」という尊称も持っています。

誕生からイマーム就任まで

811年、ムハンマド・タキーはマディーナで誕生しました。父は第8代イマームであるアリー・リダー、母はヌビア人の奴隷であったハイズラーンです。父の死後、わずか8歳という若さでイマーム職を継承したことは、一部の人々に不安視されました。しかし、アッバース朝カリフであるマアムーンの庇護を受け、その地位を維持しました。マアムーンの支援は若きイマームにとって非常に貴重であり、彼に従ってバグダードに移り住み、マアムーンの娘ウンム・アル＝ファドルと結婚しました。

イマームとしての知識

十二イマーム派シーア派においては、イマームはあらゆるイスラーム法学的な事柄について正しい判断を下すことができると信じられています。イマームが持つ「知識」がどのように継承されるかについては諸説ありますが、ムハンマド・タキーの場合、幼少にしてイマームに就任したことから、その奇跡性が強調されています。シーア派の文献では、イエスが幼少期に使命を与えられたというクルアーンの記述を引用し、幼い頃から驚異的な知識を持つことが可能であると主張しています。

バグダード滞在中、ムハンマド・タキーは若さに似合わぬ豊富なイスラーム知識で広く知られるようになりました。バグダードの著名なウラマーとの公開討論でその知識を証明した逸話も残っています。

「アッラーを信頼する者は喜びを見る。かれを確信する者は、私事を満足させるだろう」

「誰かに結婚を勧められ、相手の信仰と誠実さを確信したなら、その相手と結婚しなさい」

アッバース朝との関係

8年間バグダードで過ごした後、ムハンマド・タキーは妻と共にマディーナに戻りました。しかし、妻との関係は緊張し、833年に義父であるマアムーンが亡くなると、ムハンマド・タキーの運命は暗転します。マアムーンの後を継いでカリフとなったのは、マアムーンの義弟であるムウタスィムでした。ムハンマド・タキーは庇護者を失い、ムウタスィムとの関係が悪化しました。

835年、ムウタスィムはムハンマド・タキーをバグダードに召還しました。これは、ムウタスィムがムハンマド・タキーに豪奢な宮廷生活を送らせ、堕落させることを目論んだためであると言われています。ムハンマド・タキーは息子アリー・ハーディーとその母をマディーナに残し、バグダードへ向かいました。しかし、ムハンマド・タキーはムウタスィムの思惑通りにはならず、学者、論者として人気を博しました。

死没とその後

ムハンマド・タキーは835年11月27日に急逝しました。当時、多くのシーア派信者は、ムウタスィムに唆された妻ウンム・アル＝ファドルによる毒殺であると考えました。遺体はバグダードのクライシュ族の墓地に、祖父ムーサー・カーズィムの隣に埋葬されました。この地は、現在では聖地カーズィマインとして知られています。

ムハンマド・タキーの短い生涯は、シーア派信徒にとって重要な意味を持ち続けています。

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