アルチ (コンギラト部)

アルチ・ノヤン：チンギス・カンの右腕、コンギラト部族出身の英雄

アルチ・ノヤン（生年不詳 - 没年不詳）は、13世紀初頭のモンゴル帝国において、重要な役割を果たしたコンギラト部族出身の千人隊長です。彼はチンギス・カンの信頼厚く、帝国の拡大に大きく貢献しました。

生涯

アルチ・ノヤンは、コンギラト部の族長デイ・セチェンの息子として生まれました。彼の妹ボルテは、テムジン（後のチンギス・カン）の最初の妃となり、これがアルチ家とチンギス・カン家との深い姻戚関係の始まりでした。

『元朝秘史』によれば、デイ・セチェンはテムジンの人柄を見抜き、ボルテとの結婚を約束したとされています。一方、『集史』では、テムジンがデイ・セチェンに結婚を懇願するも拒否され、アルチの尽力によってようやく結婚が許されたと記されています。当時のテムジンの勢力が弱かったことを考慮すると、『集史』の記述の方が史実に近いと考えられています。

1206年にモンゴル帝国が建国されると、アルチは千人隊長に任ぜられ、帝国の幹部の一員となりました。『元朝秘史』の功臣表では86位に列せられ、『集史』では左翼6番目の千人隊長として記載されています。彼は5つの千人隊を率いており、これはバアリン部に次ぐ規模の兵力でした。

金朝遠征

1213年に金朝遠征が始まると、アルチはムカリ率いる左翼軍に加わり、遼西・遼東一帯の攻略を担当しました。この際、彼は契丹人の耶律留哥と出会い、彼のモンゴル軍への参加を認めました。耶律留哥は自らの兵を差し出し、モンゴル帝国への忠誠を誓い、アルチはチンギス・カンにこの件を報告し、耶律留哥に遼河一帯の統治を任せることを提案しました。

1218年、チンギス・カンは金朝侵攻の指揮権をムカリに委ね、アルチはモンケ・カルジャ、ブトゥ・キュレゲン、クシャウル、ジュスク、ウヤルらと共にムカリの指揮下に入りました。この軍団は、特にジャライル部、マングト部、コンギラト部、ウルウト部、イキレス部の5部族から構成され、「左手の五投下」と総称されるようになります。

この東方軍団において、アルチはムカリに次ぐ地位にあり、現地の漢人からは「尚書令」とも呼ばれていました。趙珙は『蒙韃備録』において、「アルチは法をよく守るため、モンゴル人はムカリに従う者は悪人でアルチに従う者は善人だと言っている」と記述しています。彼は軍事面でも活躍し、1224年には東平・大名を攻略、1226年には益都の攻囲に参加しました。

1227年、チンギス・カンはアルチの功績を称え、「国舅（皇帝の舅）」の称号を授与しました。1232年には河西王に封ぜられ、1237年には万戸の称号を授与されました。以後、アルチの子孫は代々「万戸」を称するようになります。アルチはその後まもなく亡くなり、1295年には済寧王として追封されました。

チンギス・カン家との姻戚関係

アルチの子孫は、チンギス・カン家との姻戚関係を深め、多くの皇后を輩出しました。特にクビライが創始した大元ウルスでは、クビライの正后がアルチの娘であったことから、アルチ家は姻族として特別な地位を誇りました。ただし、『元史』に記されるアルチ家出身の后妃は系譜が一部省略されていることも多く、正確な系図が不明な点も存在します。

アルチ・ノヤンは、モンゴル帝国の建国と拡大に貢献しただけでなく、その子孫を通じて元朝の皇室と密接な関係を築き、一族の繁栄を築き上げました。彼の功績は、モンゴル帝国史において特筆すべきものです。

もう一度検索