アルミード (グルック)

グルックのオペラ『アルミード』：愛と復讐が交錯する英雄劇

クリストフ・ヴィリバルト・グルックが作曲した全5幕のオペラ『アルミード』（原題: Armide）は、「ドラム・エロイック（英雄劇）」と銘打たれています。この作品は、フィリップ・キノーがリュリの同名オペラのために書いたリブレットをほぼそのまま使用していますが、プロローグは除外されています。1777年 9月23日にパリ・オペラ座で初演されました。

概要

本作は、グルックがパリ・オペラ座のために書いた7つのオペラのうち5番目の作品です。グルックは、ジャン＝バティスト・リュリとジャン＝フィリップ・ラモーが築き上げたフランス・オペラの伝統を尊重しながらも、新たな境地を切り開きました。物語は、イタリアの詩人トルクヮート・タッソーの叙事詩『解放されたエルサレム』に基づいています。この叙事詩は、ヘンデル、ハイドン、ロッシーニなど、多くの作曲家によって作品化されています。

『アルミード』は、グルックの後期オペラの中で唯一、悲劇的な結末を迎える作品であり、そのクライマックスは非常に強烈です。全5幕構成で、スペクタクルな演出やディヴェルティスマン（幕間劇）が盛り込まれており、フランス・オペラの多様な要素を巧みに取り入れている点が特徴です。音楽は、最初から最後まで高い水準で書かれています。

『ラルース世界音楽事典』では、「グルックがニコロ・ピッチンニと直接対決した最初の作品」と評されています。ピッチンニは、グルックより4カ月遅れて、1778年 1月27日にパリで『ロラン』を上演しました。『アルミード』は、グルックにとって17世紀バロック的な主題への回帰を示す作品であり、フランス的ともイタリア的とも言い難い二面性を持っています。オペラ・バレエとトラジェディ・リリックが融合しており、登場人物は『オルフェオとエウリディーチェ』のように地獄を人格化するのではなく、装飾的な役割にとどまっているとされています。

音楽的特徴

音楽評論家のレズリィ・オーリィは、本作がパリ・オペラが得意とする視覚的な豪華さを誇る領域に意識的に踏み込もうとした作品であると述べています。アルミードの魔法によって様変わりする庭園や、クライマックスで宮殿が炎に包まれる場面は、ワーグナーの『パルジファル』や『神々の黄昏』を彷彿とさせると評しています。また、グラウトは、この作品の最も際立った特徴として、ロマンティックなスタイルを予感させる牧歌的で感覚的な魅力を挙げています。特に、アリア「この風景を見れば見るほど」（Plus j’observe ces lieux）や、アルミードとルノーの別れの場面における愛の二重唱は、18世紀の作品としては驚くほど情熱的です。愛の二重唱に続くシャコンヌは、グルックの最も優れた器楽作品の一つであり、ラモーの『カストールとポリュックス』のシャコンヌに匹敵すると評されています。

フレデリック・ロベールによれば、グルックのオペラ改革を考える上で、『オルフェとウリディス』や『アルセスト』よりも、『トーリードのイフィジェニー』と『アルミード』に注目すべきです。グルックは、登場人物の性格描写をより明確にすることを意図しており、「私は音楽家であるよりも、画家・詩人であるように努めました。歌っているのがアルミードか、あるいは他の侍女であるかがその話し方で良く分かるように登場人物に話させる方法を見出しました」と述べています。

初演とその後の歴史

『アルミード』はパリ・オペラ座で初演されましたが、必ずしも成功したとは言えませんでした。イタリア・オペラを支持するグループが批判を展開し、いわゆる「グルック・ピッチンニ論争」を引き起こしました。グラウトは、「本作は友人の間では熱烈に歓迎され、敵陣からは罵倒された」と述べています。旧式の5幕構成のリブレットが多くの場面を含みすぎていたこと、作品全体に出来不出来があったことも指摘されています。リュリの作品との比較も避けられず、評価は賛否両論に分かれました。

18世紀以降、本作は頻繁には上演されていませんが、1825年にパリで行われた再演では、アレクサンドリーヌ＝カロリーヌ・ブランシュがタイトルロールを歌い、エクトル・ベルリオーズから高く評価されました。また、ジャコモ・マイアベーアが1843年にベルリンで、リヒャルト・ワーグナーも同年ドレスデンで、それぞれ本作を指揮しています。1844年には、パリでの博覧会でベルリオーズが第3幕を指揮し、900人もの出演者が参加しました。

イギリス初演は1906年 7月6日にロンドンのコヴェント・ガーデン王立歌劇場で、アメリカ初演は1910年 11月14日にニューヨークのメトロポリタン歌劇場で行われました。

楽器編成

木管楽器: フルート2、オーボエ2、クラリネット2、バスーン2
金管楽器: ホルン2、トランペット2
打楽器: ティンパニ
弦五部、チェンバロ

演奏時間

第1幕: 35分、第2幕: 30分、第3幕: 30分、第4幕: 25分、第5幕: 45分、合計約2時間45分

あらすじ

物語の舞台は11世紀のシリア。

第1幕

ダマスカスの中央広場。十字軍に勝利した王女アルミードは、侍従たちに祝われています。しかし、最も勇敢な十字軍兵士ルノーを倒していないことに、心は複雑です。アルミードは夢でルノーに愛情を抱いてしまったことを告白します。そこへ、伯父のイドラオ王が現れ、アルミードの結婚を促します。アルミードは、ルノーを打ち破るような戦士でなければ結婚できないと答えます。祝宴の最中、牢獄の看守が、ルノーの奇襲によって捕虜が逃亡したことを伝え、ダマスカスの兵士たちは復讐を誓います。

第2幕

ダマスカス郊外。ルノーは捕虜を救出し、仲間に帰還を促しますが、自身は追放された身であるため、とどまります。アルミードとイドラオ王は、悪霊を召喚してルノーを倒そうとします。美しい風景に魅せられたルノーが歌っていると、悪霊が精霊に扮して現れ、ルノーを眠らせます。アルミードはルノーを殺そうとしますが、愛情が芽生え、殺すことができません。代わりに、彼が自分を愛するように魔法をかけ、遠くに連れ去ろうとします。

第3幕

荒野。アルミードはルノーへの愛情を抑えられない苦悩を歌います。侍従たちは状況に満足しますが、アルミードは国のためにルノーを倒さねばならないと葛藤します。アルミードは憎悪の神の力を借りて愛を消そうとしますが、結局、愛を選びます。

第4幕

荒野。ルノーを救出するため、十字軍の兵士ユバルドとデンマークの騎士が派遣されます。魔物や恋人に変身した悪魔たちを退け、宮殿へと向かいます。

第5幕

アルミードの宮殿。アルミードはルノーを愛する一方で、愛が失われる不安に苛まれています。ルノーは快楽の精たちに楽しませられますが、アルミードなしでは楽しめません。ユバルドとデンマークの騎士が現れ、ルノーを救出します。アルミードは、ルノーに裏切られたことを嘆き悲しみ、復讐を誓い、宮殿を破壊し飛び去ります。

主な録音

(録音情報については、必要に応じて追加してください)

脚注

(脚注や注釈の情報は、必要に応じて追加してください)

参考文献

スタンリー・セイディ編、『新グローヴオペラ事典』
フレデリック・ロベール(著)、『オペラとオペラ・コミック』
『ラルース世界音楽事典』
ジョン・ウォラック、ユアン・ウエスト（編集）、『オックスフォードオペラ大事典』
レズリィ・オーリィ (著) 、『世界オペラ史』
D・J・グラウト（著）、『オペラ史（上）』
今谷和徳、井上さつき（著）、『フランス音楽史』
西原稔 (著)、『世界史でたどる名作オペラ』
大田黒元雄著、『歌劇大事典』

外部リンク

アルミードの楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト)
* リブレット

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