アルメニア・ソビエト社会主義共和国

アルメニア・ソビエト社会主義共和国（アルメニア語: Հայկական Սովետական Սոցիալիստական Ռեսպուբլիկա、ロシア語: Армянская Советская Социалистическая Республика）は、1920年から1991年まで存在したソビエト連邦の構成共和国です。この期間は、アルメニアが農業国から工業国へと変貌を遂げた重要な時代であり、その歴史は激動に満ちています。

歴史

共産化（レーニン時代）

1917年のロシア革命以前、アルメニアはロシア帝国の一部でしたが、革命後、南カフカースでは社会民主主義勢力が台頭し、グルジア、アゼルバイジャンと共にザカフカース民主連邦共和国を形成しました。しかし、連邦はオスマン軍の侵入により崩壊し、各国はそれぞれ独立を宣言しました。アルメニア第一共和国は、オスマン帝国との戦争で疲弊したところを赤軍に侵攻され、1920年12月3日に共産主義勢力に権力を移譲しました。

その後、トルコとのカルス条約によって、トルコはアジャリアを手放す代わりにカルス地方を得ました。この時、中世アルメニアの首都であったアニや、アルメニア人の精神的シンボルであるアララト山もトルコに割譲されました。さらに、ナヒチェヴァンとナゴルノ・カラバフはアゼルバイジャンの領土とされました。これは、以前ボリシェヴィキがアルメニアの領土であると保証していた地域でした。

1922年から1936年まで、アルメニアはグルジア、アゼルバイジャンと共にザカフカース[[社会主義連邦ソビエト共和国]]を構成しました。この時期、アルメニア革命委員会は、若く経験の浅い急進的な共産主義者によって率いられ、その政策は威圧的で人民の疲弊を考慮しないものでした。1921年2月には反乱が起こり、共産勢力は一時エレバンから追放されましたが、赤軍によって鎮圧されました。

その後、モスクワは強硬政策が地元住民との乖離を招いていると認識し、アレクサンドル・ミャスニコフを派遣し、ネップの導入も重なって、アルメニアは比較的安定した状態となりました。この時期、物資の供給や識字率の向上が見られましたが、アルメニア使徒教会は苦難の時代を迎えました。

スターリン時代

レーニンの死後、スターリンがソ連の最高権力を掌握すると、アルメニアの社会・経済政策も変化しました。1936年にはザカフカース連邦が解体され、アルメニアは独立した社会主義共和国となりました。スターリン支配の25年間、アルメニアの状況は悪化し、工業化と教育政策は厳格に規定され、ナショナリズムは抑制されました。

教会に対する迫害はさらに強まり、1930年代後半には多くの司祭が逮捕・処刑されました。1938年には総本山が閉鎖されるなど、弾圧は頂点に達しましたが、教会は地下に潜伏し、信仰を伝え続けました。

大粛清は教会だけでなく、共産党員にも犠牲をもたらしました。1937年には党幹部が処刑され、多くの知識人や芸術家が亡命や粛清の対象となりました。1930年から1938年までに1万4904人が犠牲となり、そのうち4639人が殺害されました。

また、アルメニア人は数万人単位で粛清や強制移住の対象とされ、1936年にはスターリンとベリヤはアルメニアの人口を70万人まで減らしてグルジアへ併合しようと試み、アルメニア人をシベリアに追放しました。

大祖国戦争期

大祖国戦争において、アルメニアは主戦場とはなりませんでしたが、食糧、人材、戦争物資の供給地として重要な役割を果たしました。推定30万人から50万人のアルメニア人が出征し、多くの人が犠牲になりました。一方で、ドイツ軍に協力したアルメニア人もおり、彼らは戦後、シベリアのグラーグへ送られました。

戦意高揚のため、政府は一時的にナショナリズムの抑圧政策を転換し、アルメニア語の小説の再版や英雄を扱った映画の制作を許可しました。教会への規制も緩和され、新たなカトリコスが選出されました。

ドイツ降伏後、アルメニア共産党は、カルス地方の返還をスターリンに働きかけましたが、冷戦によってトルコがNATOに加盟すると、アメリカの軍事介入を恐れたソ連は、領土要求を取り下げました。

戦後

スターリンは戦後のアルメニア経済の復興のため、ディアスポラ（離散したアルメニア人）を国内に呼び寄せるキャンペーンを開始しました。1946年から48年の間に推定15万人が帰還しましたが、在来のアルメニア人との間に衝突が生じました。ディアスポラはソ連に失望し、多くが秘密警察の監視対象となり、シベリアに送られました。

フルシチョフ・ブレジネフ時代

スターリンの死後、フルシチョフがソ連の指導者となると、スターリン批判が行われ、アルメニアは文化的・経済的復興を始めました。教会にも自由が与えられ、禁止されていた文学作品も再版されました。しかし、ブレジネフ時代になると改革は停滞し、ソ連の製品は質、量ともに不足しました。

政府はナショナリズムに対する警戒を続けましたが、1965年にはアルメニア人虐殺を抗議するデモが起こり、記念モニュメントが建造されました。4月24日は公式の記念日となり、行進も許可されました。

ゴルバチョフ時代

ゴルバチョフのペレストロイカとグラスノスチの下、ヘムシン人がアルメニアへの帰還を求めましたが、政府は拒否しました。一方で、ナゴルノ・カラバフ自治州のアルメニア人が同地のアルメニア化を懸念し、アルメニアとの統合を求める運動を開始しました。これに対し、アゼルバイジャン側も反対運動を行い、両民族間の関係は悪化しました。

さらに、アルメニア地震が発生した際には、非公認団体が救援活動を行ったため、アゼルバイジャンとの関係は悪化し、スムガイト事件へと繋がりました。

独立

ソ連中央政府の威信が低下する中、1989年にアルメニア共産党はソ連共産党から自立を宣言し、1990年には全国民運動のレヴォン・テル＝ペトロシャンが議長に就任しました。1991年9月23日にはアルメニア最高会議はソ連からの独立を宣言しました。

政治・経済

アルメニア・ソビエト社会主義共和国の政治権力は、アルメニア最高会議にありました。選挙は形式的なもので、候補者は共産党の推薦を受けた者だけでした。最高裁判所の判事は最高会議によって選出され、検察官はソビエト連邦検事総長によって任命されました。

反体制組織としては、1960年代後半から独立を訴える地下組織「民族統一党」が活動しました。

私有財産を禁止するソ連の経済体制に対して、農民は抵抗を続けましたが、1929年から国有化が始まりました。コルホーズ化は1947年には99.7%に達しました。工業化も進み、1940年には工業生産額は1913年の9倍に達しましたが、村落や家族のあり方は破壊され、自然環境にも悪影響が生じました。

鉱業や冶金が主要産業となり、モリブデン精鉱や硫酸銅の生産高はソ連内で上位でしたが、化石燃料は輸入に頼っていました。

社会

1923年からの「コレニザーツィヤ」（土着化政策）により、アルメニア語が普及し、文盲の市民はアルメニア語を学ぶよう義務付けられました。アルメニア語の新聞や雑誌が発行され、文化・歴史研究所やオペラ劇場も設立されました。ソ連の教科書では、アルメニアが「最古の文明」を持つと書かれました。マラリアの根絶も達成されました。

その後、ロシア語化政策が導入されましたが、アルメニアでは比較的遅く、母語は公用語であり続けました。

スポーツ分野では、体操選手のアルベルト・アザリャンやボクシングの世界チャンピオンのダヴィト・トロシャンなどが活躍しました。チェスの世界チャンピオンのチグラン・ペトロシアンなどの強豪を輩出し、芸術分野では画家マトリオス・サリヤンや作曲家のアラム・ハチャトゥリアンなどが活躍しました。最初の国産映画は1925年に制作され、最初のトーキーは1935年に制作されました。ラジオとテレビ放送はアルメニア語、ロシア語、アゼルバイジャン語、クルド語で行われました。

このように、アルメニア・ソビエト社会主義共和国は、激動の歴史を経験しながら、独自の文化と社会を築いてきました。

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