アレクサンドル・ベノワ

アレクサンドル・ニコラーエヴィチ・ベヌア（1870年5月3日 - 1960年2月9日）は、サンクトペテルブルク出身のフランス系ロシア人の美術家であり、舞台デザイナーとしても著名です。20世紀初頭のロシア画壇において、「芸術世界」という美術家グループの中心人物として活躍しました。また、セルゲイ・ディアギレフが主宰するロシア・バレエ団に舞台美術家として参加し、その斬新な舞台デザインは、後のモダンバレエの発展に大きな影響を与えました。

生い立ちと初期の活動

ベヌアは、建築家の父ニコライと兄レオンチー、画家の弟アリベルトと姪ジナイーダ・セレブリャコワという芸術一家に生まれました。母親のカミッラはマリインスキー劇場の設計者の娘であり、兄レオンチーの孫は名優ピーター・ユスティノフという芸術的な血筋を受け継いでいます。ベヌア自身は当初、芸術の道に進むことは考えておらず、ペテルブルク大学で法学を専攻していました。しかし、卒業から3年後、ヴェルサイユ滞在中に「ルイ14世の最後の園遊会」と題した水彩画シリーズを制作し、これが彼の芸術家としてのキャリアを大きく変えるきっかけとなりました。この作品は1897年にトレチャコフ美術館で展示され、ディアギレフやレオン・バクストの目に留まりました。この3人は協力して文芸雑誌『芸術世界』を創刊し、ロシア象徴主義運動を推進するとともに、アールヌーヴォー運動をロシアに広めようとしました。

美術家としての活動

20世紀初めの10年間、ベヌアは『芸術世界』の編集に携わる傍ら、学術的な研究にも熱心でした。19世紀のロシア美術やツァールスコエ・セローに関する研究論文を執筆・出版しています。1903年には、プーシキンの『青銅の騎士』の挿絵を発表し、挿絵画家としての名声を確立しました。1918年から1926年まで、エルミタージュ美術館の展示室「過去の画伯」の管理者として勤務し、兄レオンチーが義父から相続したレオナルド・ダ・ヴィンチの聖母子像（通称「ベノワのマドンナ」）を保管しました。

舞台美術家としての活動

1901年、ベヌアはマリインスキー劇場の舞台監督に任命され、その後、舞台デザインや装飾に多くの時間を費やしました。《レ・シルフィード》（1909年）、《ジゼル》（1910年）、《ペトルーシュカ》（1911年）などは、彼の代表作として知られています。ベヌアは主にディアギレフのバレエ・リュスで活躍しましたが、モスクワ芸術劇場やヨーロッパの著名な劇場とも協力関係を築きました。彼の舞台美術は、演劇やバレエの世界に新たな視点をもたらし、その後の舞台芸術に大きな影響を与えました。

晩年と回想録

1955年には、ベヌアの『回想録』が上・下巻に分冊されて出版されました。この回想録は、彼の生涯と芸術活動を深く理解するための貴重な資料となっています。

参考文献

Katerina Clark, Petersburg: Crucible of the Cultural Revolution (Cambridge, MA, 1995).
John E. Bowlt, The Silver Age: Russian Art of the Early Twentieth Century and the “World of Art” Group (Newtonville, MA, 1982).
Janet Kennedy, The Mir Iskusstva Group and Russian Art, 1898-1912 (New York, 1978).
Sergei Makovskii, Stranitsy khudozhestvennoi kritiki – Kniga vtoraia: Sovremennye Russkie khudozhniki (Petersburg, 1909).
Gregory Stroud, Retrospective Revolution: A History of Time and Memory in Urban Russia, 1903-1923 (Urbana-Champaign, 2006).

関連項目

ブノワ賞 - ベヌアの名を冠したバレエ賞

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