イタリア中部地震 (2016年8月)

2016年 イタリア中部地震：深い爪痕を残した災害

2016年 8月24日、イタリア中部のペルージャ県ノルチャ付近を震源とするマグニチュード6.2の地震が発生し、298人もの尊い命が失われました。この地震は、イタリアで近年発生した地震被害としては、2009年のラクイラ地震に次ぐ規模の犠牲者を出した災害となりました。

地震の概要

地震が発生したのは、午前3時36分33秒（中央ヨーロッパ夏時間）という未明の時間帯でした。震源はノルチャの南東約10km、深さは約10kmとされています。この地震による揺れは、ローマやボローニャ、ナポリといった主要都市でも観測されました。

[震央]]の位置については、アメリカ地質調査所]と[[イタリア国立地球物理学火山学研究所（INGV）で若干の違いがあり、USGSでは北緯42.723度東経13.188度、INGVでは北緯42.706度東経13.223度と発表しています。このわずかな違いによって、震央の位置がペルージャ県内であるか、リエーティ県内であるかという違いが生じました。

この地震は、欧州メディアでは「アックーモリ地震」や「アマトリーチェ地震」とも呼ばれています。

相次ぐ余震

本震発生後も、余震が相次ぎました。本震から1時間後には、ノルチャの北東4kmを震源とするマグニチュード5.4の余震が発生しています。さらに2ヶ月後の10月26日には、マチェラータ県ヴィッソ近郊で、マグニチュード5.4と5.9の地震が相次いで発生しました。この2度目の地震では、多くの建物で壁が崩れるなどの被害が出ています。

そして、10月30日には、一連の地震で最大規模となるマグニチュード6.6の地震が発生しました。（この地震については、イタリア中部地震 (2016年10月) を参照ください。）

また、2017年1月18日には、マグニチュード5クラスの地震が4回発生し、ペスカーラ県ファリンドラでは、地震によって誘発されたとみられる大規模な雪崩が発生し、ホテルが埋没。29人の方が亡くなるという痛ましい事故も発生しました。

甚大な被害

この地震では、震源に近いアマトリーチェやアックモリでメルカリ震度階級IXを記録したとみられています。未明の地震であったため、多くの住民が就寝中に被災し、建物が倒壊した下敷きになったり、逃げ遅れるなどの被害が多数発生しました。

地震による被害は、ウンブリア州（ペルージャ県）、マルケ州（アスコリ・ピチェーノ県）、ラツィオ州（リエーティ県）の3州にまたがり、特にラツィオ州やマルケ州で被害が大きくなっています。観光地として知られていたアマトリーチェ（ラツィオ州リエーティ県）では、特に甚大な被害が報告されており、アックーモリ（ラツィオ州リエーティ県）やペスカーラ・デル・トロント（マルケ州アスコリ・ピチェーノ県アルクアータ・デル・トロント村の一集落）でも大規模な被害が伝えられています。

一方で、過去に2度の大地震で大きな被害を受けていたノルチャでは、官民共同で耐震対策が強化されていたことから、人的・物的被害はほぼ皆無でした。

地震発生の原因

この地域で地震が多い原因として、イタリアを貫くアペニン山脈が地殻変動によって、年平均3ミリ程度引き伸ばされていることが指摘されています。この地域では、2009年のラクイラ地震、1639年のアマトリーチェ地震、1915年のアベッツァーノ地震など、過去にも多くの地震が発生しています。

被害の拡大要因

この地震による被害が拡大した要因として、以下の点が挙げられます。

耐震基準の不備: イタリアでは1970年代から耐震に関する法整備が進められてきましたが、2000年代以降に定められた本格的な耐震基準は、新築の建物のみを対象としており、既存の古い建物は耐震化が遅れていました。2008年の民間調査によれば、国内中部では全体の14%しか耐震基準を満たしていませんでした。
歴史的建造物の存在: 石造りなどの歴史的建造物が多く存在し、その保全制度が耐震化を妨げる要因となっていました。
政府の財政問題: イタリア政府が債務問題に直面しており、民間セクターへの奨励策や公共建造物の安全対策に必要な投資が不足していました。
手抜き工事の疑い: 倒壊・損壊した建物の一部で、建設コストを下げるためにセメントの代わりに砂を多く使用した手抜き工事の疑いが指摘されています。
建物の構造的脆弱性: アマトリーチェでは、RC造（鉄筋コンクリート造り）の建物がわずか9%しかなく、壁と壁の結合不足、壁と床の不十分な連結、質の悪い組積造建造物など、構造的に脆弱な建物が多かったことが被害を大きくしたと考えられます。
地震情報の伝達の遅れ: 地震の切迫性を住民に通知しなかった当局についても批判の声が上がっています。

救助活動と復旧への道のり

地震発生直後から、イタリア軍を含む4,400人以上の救助隊が、瓦礫の撤去や救出・捜索活動を行いました。25日には、政府の救出活動により238人が瓦礫の中から救出されました。

しかし、避難者数は2,000人を超え、死者数は294人、負傷者数は388人に達しました。

この地震を受けて、イタリア政府は2億3500万ユーロの緊急支援を決定し、被災地に対し非常事態宣言を行いました。また、5,000万ユーロの緊急支援金も拠出されました。

国内外からの支援

この地震に対して、国内外から多くの支援が寄せられました。

イタリア国内: イタリア赤十字社は、通信回線確保のためにwi-fiを一般開放することを呼びかけました。また、テレコム・イタリアは、通信手段の支援のために技術者を被災地に派遣しました。プロサッカーリーグのASローマは、チャリティーマッチを行い、被災地支援を表明しました。
アマトリチャーナを通じた支援: アマトリーチェの復興支援のため、レストランでアマトリチャーナをメニューに加え、その売り上げの一部を寄付するという活動がイタリアを中心に広がり、日本を含め世界各国に広がりました。
博物館・美術館の支援: イタリア各地の国立博物館や美術館は、入場料の収益を被災地に寄付するキャンペーンを行いました。
バチカン: ローマ法王フランシスコは、犠牲者への祈りを呼びかけ、崩落した建物から少女を救出した救助犬を称えました。
日本: 神戸国際支縁機構が緊急救援募金の受付を開始しました。また、群馬県前橋市、渋川市、甘楽町の3市町村や熊本県、熊本市、熊本県国際協会なども義援金活動を行いました。
ドイツ: ドイツ政府は、倒壊した小学校の再建を支援することを約束しました。

復興への課題

この地震から年月が経ちましたが、復興はまだ道半ばです。被災地では、建物の再建だけでなく、地域経済の再生や住民の心のケアなど、多くの課題が残されています。

この災害から得られた教訓を活かし、今後このような悲劇が繰り返されないよう、防災対策を強化していくことが重要です。