インカ・ショニバレ
インカ・ショニバレCBE（Yinka Shonibare CBE, 1962年 - ）は、ナイジェリアにルーツを持つイギリス人アーティストです。彼は、絵画、彫刻、写真、映像など、多様なメディアを駆使し、人種、性別、階級、文化、国境といった複雑な問題に鋭く切り込みます。特筆すべきは、彼のアーティスト名に付記される「CBE」という称号です。これは、大英帝国勲章の三等勲位を示すものであり、彼の作品に込められた意図を象徴する要素となっています。
1962年、ロンドンで生まれたショニバレは、3歳から17歳までナイジェリアのラゴスで過ごしました。その後、再びロンドンに戻り、バイアン・ショー・スクール・オブ・アート（後のセントラル・セント・マーチンズ）とゴールドスミス・カレッジで美術を学びました。美術学校での経験は、彼の芸術観を大きく形成するものでした。指導教員から「アフリカらしい作品」を求められたことがきっかけで、彼は、アフリカが近代化の中で他国の文化から影響を受けてきた事実を作品で表現しようと決意します。この経験が、アフリカに対するステレオタイプなイメージや、植民地支配の歴史、美術界のヒエラルキーに異を唱える作品制作の原動力となりました。
ショニバレは、1997年に若手芸術家が集う「センセーション」展でデビューを果たしました。その後、2002年にはドクメンタ11でキュレイターのオクウィ・エンヴェゾーから依頼された『Gallantry and Criminal Conversation』を発表し、大きな反響を呼びます。2004年にはターナー賞にノミネートされ、2005年には大英帝国勲章五等勲位（MBE）を受章。ヴェネチア・ビエンナーレをはじめとする国際的な展覧会にも多数参加し、2008年にはシドニー現代美術館から始まった個展が、ブルックリン美術館やスミソニアン博物館のアフリカ美術館を巡回しました。2013年にはロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ（RA）の会員に選出され、2019年には大英帝国勲章三等勲位（CBE）を授与されています。彼のアーティスト名に称号を付記するのは、この称号が、英国的ではない自分に英国の称号が付与されているという矛盾を表現するためだとショニバレは述べています。
近年、ショニバレは、世界のアーティストと交流できる施設をナイジェリアに建設する計画を進めています。2008年からイースト・ロンドンで芸術家のためのスペースを運営していた経験から、ラゴスでも同様の施設を設立することを思い立ったのです。このプロジェクトは「ゲスト・アーティスト・スペース（G.A.S.）」と呼ばれ、地元アーティストと海外からのアーティストの交流を促進し、地域経済の活性化にも貢献することを目指しています。
ショニバレの作品は、ポストコロニアル理論やフェミニズムの視点を色濃く反映しています。彼は、文化は互いに影響し合いながら形成されるものであり、歴史的にどのように文化が混ざり合ってきたかを知ることが重要だと考えています。作品を通して、社会的なテーマを扱いながらも、観る人が楽しめるように工夫されているのが特徴です。特に、彼の作品に頻繁に登場する「アフリカン・プリント」と呼ばれる布は、その象徴的な素材と言えるでしょう。この布は、もともとはインドネシアの伝統的なバティックを模倣したヨーロッパ製品であり、名前もヨーロッパで付けられたものです。しかし、1960年代にはアフリカ独立の象徴として広く用いられるようになりました。ショニバレは、学生時代に「アフリカらしい作品」を求められた経験から、この布の歴史を学び、自身の作品に取り入れるようになりました。
ショニバレの代表作として、ドクメンタで発表された『Gallantry and Criminal Conversation』（2002年）は、17世紀から18世紀のイギリスで行われたグランドツアーをモチーフにしています。裕福な貴族の子弟を模した人形たちが、性的で退廃的な観光旅行をする様子を、当時の衣装デザインとアフリカン・プリントの生地を用いて表現しています。
『瓶の中のネルソンの船』（2007年）では、イギリスの植民地帝国の始まりを象徴するトラファルガー海戦を題材に、ネルソン提督が乗ったヴィクトリー号を、アフリカン・プリントの帆で飾り、瓶に閉じ込めるという皮肉な表現が用いられています。この作品は、トラファルガー広場にも展示されました。
『ハイビスカスの下に座る少年』（2015年）では、ナイジェリアで一般的なハイビスカスの下に、アフリカン・プリントの服を着た少年像が座っています。少年の頭部は、イギリス植民地が赤く塗られた地球儀となっており、植民地支配の歴史を強く意識させます。
映像作品『オディールとオデット』（2005年）では、バレエ『白鳥の湖』を題材に、黒人と白人のバレリーナが鏡合わせのように踊る様子が映し出されます。この作品では、白鳥が主役、黒鳥が悪役という従来の表現に対する問いかけが込められています。
日本でもショニバレの作品は注目されており、2006年に森美術館で開催された「アフリカ・リミックス」展や、2016年の横浜美術館「BODY / PLAY / POLITICS」展で、その作品が展示されました。2019年には、福岡市美術館で日本初の個展「インカ・ショニバレCBE: Flower Power」が開催され、個展のために制作された『桜を放つ女性』（2019）も発表されました。この作品は、鹿鳴館様式のドレスをアフリカン・プリントで作り、銃を構える女性像が特徴的です。銃口からは桜が飛び出し、桜の花びらにはさまざまな色が使われ、多様性を表現しています。女性像の頭部には、女性の権利獲得に貢献した人物の名前が書かれた地球儀が用いられています。
ショニバレの作品は、その豊かな色彩と複雑なテーマ、そして歴史と文化に対する深い洞察によって、観る者に多角的な視点を提供し続けています。
生い立ちと芸術への目覚め
1962年、ロンドンで生まれたショニバレは、3歳から17歳までナイジェリアのラゴスで過ごしました。その後、再びロンドンに戻り、バイアン・ショー・スクール・オブ・アート（後のセントラル・セント・マーチンズ）とゴールドスミス・カレッジで美術を学びました。美術学校での経験は、彼の芸術観を大きく形成するものでした。指導教員から「アフリカらしい作品」を求められたことがきっかけで、彼は、アフリカが近代化の中で他国の文化から影響を受けてきた事実を作品で表現しようと決意します。この経験が、アフリカに対するステレオタイプなイメージや、植民地支配の歴史、美術界のヒエラルキーに異を唱える作品制作の原動力となりました。
国際的な活躍と評価
ショニバレは、1997年に若手芸術家が集う「センセーション」展でデビューを果たしました。その後、2002年にはドクメンタ11でキュレイターのオクウィ・エンヴェゾーから依頼された『Gallantry and Criminal Conversation』を発表し、大きな反響を呼びます。2004年にはターナー賞にノミネートされ、2005年には大英帝国勲章五等勲位（MBE）を受章。ヴェネチア・ビエンナーレをはじめとする国際的な展覧会にも多数参加し、2008年にはシドニー現代美術館から始まった個展が、ブルックリン美術館やスミソニアン博物館のアフリカ美術館を巡回しました。2013年にはロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ（RA）の会員に選出され、2019年には大英帝国勲章三等勲位（CBE）を授与されています。彼のアーティスト名に称号を付記するのは、この称号が、英国的ではない自分に英国の称号が付与されているという矛盾を表現するためだとショニバレは述べています。
アフリカへの貢献と新たな試み
近年、ショニバレは、世界のアーティストと交流できる施設をナイジェリアに建設する計画を進めています。2008年からイースト・ロンドンで芸術家のためのスペースを運営していた経験から、ラゴスでも同様の施設を設立することを思い立ったのです。このプロジェクトは「ゲスト・アーティスト・スペース（G.A.S.）」と呼ばれ、地元アーティストと海外からのアーティストの交流を促進し、地域経済の活性化にも貢献することを目指しています。
作品に見るポストコロニアルな視点
ショニバレの作品は、ポストコロニアル理論やフェミニズムの視点を色濃く反映しています。彼は、文化は互いに影響し合いながら形成されるものであり、歴史的にどのように文化が混ざり合ってきたかを知ることが重要だと考えています。作品を通して、社会的なテーマを扱いながらも、観る人が楽しめるように工夫されているのが特徴です。特に、彼の作品に頻繁に登場する「アフリカン・プリント」と呼ばれる布は、その象徴的な素材と言えるでしょう。この布は、もともとはインドネシアの伝統的なバティックを模倣したヨーロッパ製品であり、名前もヨーロッパで付けられたものです。しかし、1960年代にはアフリカ独立の象徴として広く用いられるようになりました。ショニバレは、学生時代に「アフリカらしい作品」を求められた経験から、この布の歴史を学び、自身の作品に取り入れるようになりました。
代表的な作品
ショニバレの代表作として、ドクメンタで発表された『Gallantry and Criminal Conversation』（2002年）は、17世紀から18世紀のイギリスで行われたグランドツアーをモチーフにしています。裕福な貴族の子弟を模した人形たちが、性的で退廃的な観光旅行をする様子を、当時の衣装デザインとアフリカン・プリントの生地を用いて表現しています。
『瓶の中のネルソンの船』（2007年）では、イギリスの植民地帝国の始まりを象徴するトラファルガー海戦を題材に、ネルソン提督が乗ったヴィクトリー号を、アフリカン・プリントの帆で飾り、瓶に閉じ込めるという皮肉な表現が用いられています。この作品は、トラファルガー広場にも展示されました。
『ハイビスカスの下に座る少年』（2015年）では、ナイジェリアで一般的なハイビスカスの下に、アフリカン・プリントの服を着た少年像が座っています。少年の頭部は、イギリス植民地が赤く塗られた地球儀となっており、植民地支配の歴史を強く意識させます。
映像作品『オディールとオデット』（2005年）では、バレエ『白鳥の湖』を題材に、黒人と白人のバレリーナが鏡合わせのように踊る様子が映し出されます。この作品では、白鳥が主役、黒鳥が悪役という従来の表現に対する問いかけが込められています。
日本でもショニバレの作品は注目されており、2006年に森美術館で開催された「アフリカ・リミックス」展や、2016年の横浜美術館「BODY / PLAY / POLITICS」展で、その作品が展示されました。2019年には、福岡市美術館で日本初の個展「インカ・ショニバレCBE: Flower Power」が開催され、個展のために制作された『桜を放つ女性』（2019）も発表されました。この作品は、鹿鳴館様式のドレスをアフリカン・プリントで作り、銃を構える女性像が特徴的です。銃口からは桜が飛び出し、桜の花びらにはさまざまな色が使われ、多様性を表現しています。女性像の頭部には、女性の権利獲得に貢献した人物の名前が書かれた地球儀が用いられています。
ショニバレの作品は、その豊かな色彩と複雑なテーマ、そして歴史と文化に対する深い洞察によって、観る者に多角的な視点を提供し続けています。
もう一度検索
【記事の利用について】
タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。
【リンクついて】
リンクフリーです。