イーサン・ラッセル

イーサン・ラッセル（Ethan Russell、1945年 11月26日生まれ）は、アメリカ合衆国出身の写真家、映像作家、そして著作家です。特にロック・ミュージックの世界でその名を知られており、イギリスを代表する三大ロックバンド、すなわちビートルズ、ローリング・ストーンズ、ザ・フーのアルバムカバー写真をすべて撮影したという、他に類を見ない功績を残しています。

生い立ちと初期

チャールズ・ハウランド・ラッセルとアリス・アレン・ラッセルの間に生まれたイーサン・ラッセルは、著名なサフラジェットであるフローレンス・ジャフレイ・ハリマンと、聖公会の司教であったヘンリー・C・ポッターの曾孫にあたります。彼には3人の兄弟姉妹がおり、中でも兄のジェレミー・ラッセル（1944年-2005年）は、ロックバンド、ブルー・チアーの創設者兼マネージャーを務めていました。

一家は1950年にニューヨークのマンハッタンへ移り住み、さらに1952年にはカリフォルニア州サンフランシスコに移りました。ラッセルはカリフォルニア州サンタバーバラ郊外のケイト・スクールで学び、その後、カリフォルニア大学デービス校に進学して英語と芸術を専攻しました。この頃から写真に対する関心を深め、1968年のイギリス旅行がプロの写真家として活動を始めるきっかけとなりました。

キャリアの始まり

当初、作家を目指してロンドンに移住したラッセルは、自閉症児のための施設で働きながら、趣味で写真撮影を行っていました。彼は2013年のインタビューで、イギリスへの移住は映画『欲望』に触発されたものだと語っています。彼のプロとしてのキャリアは、兄ジェレミーがマネージメントしていたバンド、ブルー・チアーを撮影した写真が、ローリング・ストーン誌のジョナサン・コットの目に留まったことから始まりました。これが縁となり、彼はミック・ジャガーのインタビュー撮影を任されることになり、この経験が写真家としての道を決定づけました。

ラッセルが初期に撮影したローリング・ストーンズの写真は、1969年にリリースされた、亡きブライアン・ジョーンズに捧げられたコンピレーションアルバム『スルー・ザ・パスト・ダークリー』のフロントカバーに採用されています。

ローリング・ストーンズとの関わり

1969年、イーサン・ラッセルはローリング・ストーンズの歴史的なアメリカツアーに、専属写真家として同行しました。彼はバンドの身近な存在として、その瞬間瞬間をカメラに収めました。音楽評論家のジョエル・セルヴィンは、当時のラッセルの役割について「彼はバンドの非常に身近な存在だった」と評しています。このツアーで彼が捉えた躍動感あふれる写真は、後にローリング・ストーンズの代表的なライブアルバム『ゲット・ヤー・ヤ・ヤズ・アウト』のジャケットとして広く知られることになります。

ビートルズとの瞬間

ラッセルは、ビートルズの歴史的な瞬間にも立ち会っています。1969年1月30日、彼はロンドンのアップル・コア本社屋上で行われた、ビートルズにとって最後のライブパフォーマンスとなった「ルーフトップ・コンサート」を撮影しました。さらに同年8月22日には、ジョン・レノンとオノ・ヨーコが所有するティッテンハースト・パークで行われた、ビートルズとしての最後の公式フォト・セッションにも参加しています。これらのセッションで撮影された写真のうち2点は、アルバム『ヘイ・ジュード』のカバーに使用されました。

ザ・フーの作品

1971年、ラッセルはザ・フーの傑作アルバム『フーズ・ネクスト』の印象的なジャケット写真を撮影しました。また、1973年に発表されたコンセプト・アルバム『四重人格』では、アルバムに添付された44ページにも及ぶブックレットのために、多数の白黒写真を撮影しました。ザ・フーのメンバーであるピート・タウンゼントは、ラッセルの写真について高く評価しています。この『四重人格』のブックレットでの功績により、ラッセルは第17回グラミー賞において「Best Recording Package」部門にノミネートされました。1988年の編集アルバム『フーズ・ベター、フーズ・ベスト』のカバーにも、彼の作品が使用されています。

その他の活動

三大バンド以外にも、イーサン・ラッセルはジェリー・リー・ルイス、リンダ・ロンシュタット、ジョン・ハイアット、ロザンヌ・キャッシュといった著名なミュージシャンたちのポートレートや活動風景を撮影しています。彼の写真は多くの雑誌の表紙や記事を飾り、数えきれないほどのアルバムカバーに採用されました。

1978年頃からは、映画やビデオ制作にも関わるようになり、現在ではミュージックビデオのパイオニアの一人とも見なされています。1985年には、ハンク・ウィリアムズ・ジュニアの「There's a Tear in My Beer」のミュージックビデオで、グラミー賞の最優秀ミュージックビデオ部門にノミネートされました。

1990年代には、インタラクティブ・メディアの可能性に目を向け、デスクトップパソコン向けインタラクティブ・ビデオ配信を専門とする企業のクリエイティブ・ディレクターとして従事しました。

著作活動も行っており、2007年にはローリング・ストーンズの1969年アメリカツアーに関する書籍を出版。2021年には、ピーター・ジャクソン監督によるドキュメンタリー映画『ザ・ビートルズ: Get Back』のコンパニオン版書籍が、彼の多数の写真と共に刊行されました。

現在、イーサン・ラッセルは写真家、作家、映像製作者、プロデューサーとして精力的に活動を続け、カリフォルニア州マリン郡に家族と共に暮らしています。

主なアルバム・アートワーク

（入力情報に基づき、代表的な作品をリスト化）

The Beatles: 『ヘイ・ジュード』
The Rolling Stones: 『スルー・ザ・パスト・ダークリー』、『ゲット・ヤー・ヤ・ヤズ・アウト』
The Who: 『フーズ・ネクスト』、『四重人格』、『フーズ・ベター、フーズ・ベスト』

著書

Dear Mr. Fantasy : Diary of a Decade : Our Time and Rock and Roll. Houghton Mifflin Harcourt, Boston 1985, ISBN 0395344212.
Let It Bleed: The Rolling Stones, Altamont, and the End of the Sixties. Springboard, London 2009, ISBN 9780446539043.
『オルタモントのローリング・ストーンズ』（中江昌彦訳）K&Bパブリッシャーズ、2011年 ISBN 978-4-90280-019-7
An American Story: It's Your History. Help Write It. E-Book 2012.
with John Harris (Hrsg.), Peter Jackson, Hanif Kureishi, Linda McCartney and The Beatles: The Beatles : Get back. Apple/Callaway, London/New York 2021, ISBN 9780935112962.

（注：文中の人物評や引用は、入力情報から内容を再構成・要約したものであり、原文のままの引用ではありません。）

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