ウクライナのアレクサンドル・プーシキン記念碑の取り壊し

ウクライナにおけるプーシキン像の撤去：脱ロシア化の象徴

2022年、ロシアによるウクライナ侵攻を機に、ウクライナ各地でアレクサンドル・プーシキンの記念碑が次々と撤去されました。この動きは「プーシキノパッド（プーシキンの落下）」と呼ばれ、ウクライナの脱ロシア化政策を象徴する出来事として注目されています。

歴史的背景

ウクライナの歴史家ヴォロディミル・イェルモレンコは、ロシア文学が同国の帝国主義的野望や民族主義的世界観を伝える手段として機能してきたと指摘しています。特に、プーシキンの詩『ポルタワ』は、ロシアの視点からウクライナのコサック指導者イワン・マゼパを裏切り者として描いており、歴史認識の歪曲を招いていると批判されています。ロシアによるウクライナ侵攻後、プーシキンの記念碑は、過去に多くが撤去されたレーニン像と同様に、ロシアの影響力を象徴する存在として捉えられるようになりました。この現象は、ウクライナの人々によって「プーシキノパッド」と呼ばれています。

プーシキン像撤去の動き

最初に広く知られるようになったのは、2022年4月7日にムカチェヴォでプーシキン記念碑が解体された事件でした。その直後、4月9日にはウージュホロドとテルノーピリでも記念碑が撤去されました。テルノーピリ市長のセルヒイ・ナダルは、プーシキン像撤去の必要性を以下のように述べています。

2022年3月22日、テルノーピリの住民がプーシキンの記念碑を赤く塗り、「戦争を止めろ」と書いたことで、記念碑を解体する動きが強まりました。

テルノーピリのプーシキン像は1961年に建立されましたが、2014年のウクライナ紛争開始後から撤去の動きが見られるようになりました。

以下は、2022年に撤去されたプーシキン像の一覧です。

4月7日：ムカチェヴォ
4月9日：ウージュホロド、テルノーピリ
4月11日：リヴィウ州ザボロティフツィ村（胸像）
4月19日：クロピヴニツキー（7月8日に撤去）
4月26日：ザカルパッチャ州ベレホヴェ地区プーシキノ村
4月28日：コノトプ（解体中に頭部が切断）
4月30日：チェルニーヒウ
5月5日：ヴィーンヌィツャ
5月8日：イヴァーノ＝フランキーウシク州デリアティン（胸像）
5月21日：ムィコラーイウ
6月1日：ニーコポリ（破損）
6月3日：チェルニーヒウのオルハ・コビリャンスカ・ドラマ・シアターから胸像撤去提案
7月26日：ザポリージャ（胸像）
9月1日：キーウの第153プーシキン体育館（胸像）
10月11日：キーウの国立運輸大学前（胸像）
11月9日：ハルキウのPoetry Maidan（胸像、保管のため撤去）
11月11日：ジトーミル、ジュメールィンカ
11月16日：ドニプロのプーシキン通りがレーシャ・ウクラインカ通りに改名、記念碑は12月16日に撤去
11月17日：チェルニウツィー
11月20日：ニーコポリ（胸像が倒される）
11月21日：クレメンチューク
11月29日：ミコライウ、アナニフ
12月9日：トゥーリチン
12月16日: ドニプロ
12月23日：チェルニウツィー（2つ目の像）
12月24日：クロレベッツ
12月27日：チェルニウツィー・ドラマ・シアターの正面（胸像）
12月29日：ポロンネ（胸像）、ミコライウ（2つ目の記念碑）
* 12月30日：クラマトルスク

この他にも多くのプーシキン像が撤去され、ウクライナ各地で脱ロシア化の動きが加速しています。

文化・教育分野への影響

プーシキン像の撤去は、単なる記念碑の解体にとどまらず、文化や教育分野にも大きな影響を与えています。ウクライナ教育科学省の作業部会は、アレクサンドル・プーシキンを含むソ連およびロシアの作家による40以上の作品を学校の教科書から削除することを決定しました。これは、教育現場におけるロシア文化の影響力を排除し、ウクライナ独自の文化を育成する動きと言えます。

まとめ

ウクライナにおけるプーシキン像の撤去は、ロシアのウクライナ侵攻を背景とした脱ロシア化の象徴的な出来事です。歴史的な経緯やロシア文学に対する批判、そして教育分野における変化は、ウクライナが過去のロシアの影響から脱却し、新たな国家としてのアイデンティティを確立しようとしていることを示唆しています。プーシキン像の撤去は、ウクライナの歴史と文化における重要な転換点と言えるでしょう。

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