ウズ・テムル

ウズ・テムル：大元ウルスの高官、その生涯と功績

ウズ・テムル（Üz temür, ? - 1295年）は、アルラト部出身で、大元ウルスに仕えた高官です。彼はモンゴル帝国建国の功臣であるボオルチュの孫にあたります。漢文史料では玉昔帖木児、ペルシア語史料ではاوز تیمورと記されています。また、「能力ある官吏」を意味するオルク・ノヤン/ウルルク・ノヤンという称号でも知られていました。

生い立ちと初期のキャリア

ウズ・テムルは、ボオルチュの息子（または甥）であるボロルタイの息子として生まれました。幼い頃から利発で知られ、その才能を見抜いたクビライによって召し出され、ケシクテイ（親衛隊）のバウルチ（主膳司）に任じられました。バウルチは、裏切りが即主君の死につながるという重要な役割であるため、家柄が高く、信頼の厚い者が選ばれるのが通例でした。この役職を通じて、ウズ・テムルはクビライの側近として重用されるようになります。

御史大夫への就任と二重身分

至元12年（1275年）には、中央の三大官庁の一つである御史台の長官、御史大夫に任命されました。しかし、ウズ・テムルは伝統的な中国官僚としてこの地位に就いたのではなく、アルタイ山地域の遊牧民を統べるモンゴル人領侯としての側面も持ち合わせていました。モンゴル兵を率い、親衛隊に所属しながら中国的な官職も務めるという二重の身分は、大元ウルス時代特有の現象と言えるでしょう。

至元18年（1281年）には、江南地方の分封に伴い、全州路を与えられました。これにより、ボオルチュ家はモンゴル高原のアルタイ山麓、華北の広平路、江南の全州路という3つの領地を所有することになりました。記録によれば、ウズ・テムルの下で広平路と全州路は密接に連携していたようです。

ナヤン・カダアンの乱での活躍

至元24年（1287年）にナヤンの乱が勃発すると、ウズ・テムルはキプチャク部やアスト部を中心とする騎兵軍を率いて、クビライ自らが指揮する鎮圧軍に参加しました。クビライ軍はナヤン軍を破り、ナヤンを捕虜とする戦果を挙げました。戦後、クビライはウズ・テムルの功績を称えましたが、ウズ・テムルは謙遜したと言われています。

ナヤンの敗北後も各地で残党が活動を続け、クビライに代わってテムル（後の第6代皇帝）が総司令官となり、ウズ・テムルがこれを補佐しました。カダアン討伐では、タウル川での戦いにおいて、李庭が「火砲」を用いてカダアン軍の馬を混乱させ、元軍勝利に貢献しました。この功績により、ウズ・テムルは七宝冠帯を与えられ、太傅・開府儀同三司の地位を加えられました。

晩年と帝位継承への関与

至元29年（1292年）には録軍国重事・知枢密院事に任じられ、その声望は非常に高かったと伝えられています。至元30年（1293年）には、カイドゥの侵攻に備えるため、モンゴル高原に派遣されたテムルの補佐を務めました。彼はテムルに「皇太子宝」の印璽を授かるよう進言し、認められるなど、テムルを次期皇帝とするべく積極的に活動しました。

至元31年（1294年）にクビライが崩御すると、上都で後継者を決めるクリルタイが開かれ、ウズ・テムルはテムルと共に参加しました。クリルタイではテムルとその兄のカマラが候補に挙がりましたが、ウズ・テムルはテムルの即位を強く支持し、最終的にカマラは帝位を諦めました。テムルの即位後、ウズ・テムルは太師という最高位を与えられ、再びモンゴル高原へ帰還しました。元貞元年（1295年）に亡くなり、その地位は息子のムラクが継承しました。

子孫

ウズ・テムルにはムラク、トオリル、トクトガという3人の息子がいました。ムラクが本来の後継者でしたが、後にトクトガが権力を握り、御史大夫の地位を得ました。しかし、トクトガの失脚後、ムラクの息子であるアルクトゥがボオルチュ家の当主となりました。

ウズ・テムルの生涯は、大元ウルスの成立と発展に大きく貢献したモンゴル人高官の典型的なものであり、彼の功績は後世にまで語り継がれています。

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