エクリプス (競走馬)

エクリプス：18世紀を席巻した伝説の競走馬

18世紀後半、イギリスで活躍した競走馬エクリプス（1764年 - 1789年）。その名は、誕生日に起こった日食に由来します。彼は18戦全勝という驚異的な戦績を誇り、現代サラブレッドの礎を築いたとされる、まさに伝説的名馬です。

激動の時代とエクリプスの誕生

エクリプスが生まれた時代、イギリスの競馬は現代とは大きく異なっていました。ジョッキークラブもダービーステークスも存在せず、貴族や富豪による私的な賭けが中心でした。競走形態も、同じ馬が複数回走るヒートレースが主流でした。サラブレッドという品種もまだ確立されておらず、エクリプスは「ランニングホース」と呼ばれていたはずです。

エクリプスは、激しい気性を持つ馬でしたが、その能力は群を抜いていました。18戦全勝（ヒートレース7、マッチレース1、単走8）という驚異的な記録は、全て圧勝だったと伝えられています。当時の最強馬と称されることが多いのも納得です。

しかし、記録には不明瞭な点も多く、残された逸話も真偽不明なものがあります。エクリプスと同時代の強豪馬も存在しましたが、戦争などの影響もあり、その多くは歴史の闇に埋もれてしまいました。

種牡馬としての圧倒的な成功

エクリプスは、競走馬としての活躍以上に、種牡馬としての功績が絶大です。ポテイトーズ、キングファーガスといった名馬を輩出し、344頭もの産駒が勝利を収めました。ダービーステークス創設後も、3頭の優勝馬を送り出しています。

今日のサラブレッドの父系を遡ると、その98%がエクリプスの2頭の産駒、ポテイトーズとキングファーガスにたどり着きます。これらはエクリプス系と呼ばれ、他の系統を圧倒的に凌駕しています。

驚異のデビューと圧勝劇

1765年、1歳になったエクリプスはセリ市に出され、羊の売買商ウィリアム・ワイルドマンによって競り落とされました。しかし、激しい気性のエクリプスは扱いが難しく、ワイルドマンは一時去勢も考えました。しかし、デニス・オケリーのアドバイスを受け、辛抱強く調教を続けました。

1769年、5歳でデビューしたエクリプスは、エプソム競馬場のノーブルメン&ジェントルメンズプレートで圧勝。この時、「Eclipse first, the rest nowhere.（エクリプス1着、2着なし）」という言葉が生まれました。この言葉は、エクリプスの圧倒的な強さを象徴する名言となりました。

その後も、エクリプスは次々とレースを制覇。その強さゆえに、対戦相手を見つけるのが困難になるほどでした。生涯で少なくとも8度の単走を経験したという記録からも、その圧倒的な強さがわかります。

引退後と遺伝子への影響

1770年、エクリプスは引退し、種牡馬となりました。オケリーのもとで、エクリプスは競走馬時代と同様の成功を収め、多くの名馬を輩出しました。1789年、疝痛のため25歳で死亡しました。

エクリプスの遺伝子は、現代のサラブレッドにも深く刻まれています。研究によると、オーストラリアのサラブレッドへの血統的影響は、ヘロド、ゴドルフィンアラビアンに次ぐ規模に達します。しかし、エクリプスの遺伝子を多く持つ個体は、現役期間が短い傾向があるという興味深い研究結果も出ています。

エクリプスのレガシー

エクリプスは、イギリス競馬のみならず、世界のサラブレッドの歴史に、計り知れないほどの影響を与えました。サラブレッドの多くがその血を受け継ぎ、エクリプスステークスやエクリプス賞といった数々の記念事業が、その偉業を称えています。

「Eclipse first, the rest nowhere.」この言葉は、単なる競走結果の報告ではなく、エクリプスという名馬が持つ圧倒的な力、そしてその血脈が現代競馬にまで及ぶ偉大な影響を示す、不滅の言葉なのです。

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