エコー (人工衛星)

エコー衛星

エコー衛星（Echo）とは、1960年代にアメリカ航空宇宙局（NASA）によって運用された、世界で初めての受動型通信衛星計画です。この計画で打ち上げられた衛星は、表面を金属で覆われた巨大な気球のような形状をしていました。その主な目的は、地上の送信局から放たれたマイクロ波信号を反射させ、別の地点にある受信局へ中継することによって通信を確立することでした。これは、後に主流となる、受信した信号を増幅・処理して再送信する能動的な通信衛星とは異なる方式です。

この計画における最初の衛星、エコー1A号（一般にエコー1号と呼ばれることが多い）は、1960年8月12日にソー・デルタロケットにより軌道投入に成功しました。これに先立つ5月13日の打ち上げは失敗に終わっています。エコー1号は、高度約1500～1700キロメートルの低軌道（LEO）を周回しました。その構造は、直径が100フィート（およそ30メートル）にも及ぶ巨大な気球で、厚さ約0.01ミリメートルの金属フィルムでコーティングされたポリエステル製です。打ち上げ時には小さく折り畳まれていましたが、宇宙空間で展開・膨張しました。

エコー1号は、その鏡面のような金属表面を利用して電波を反射させることで、大陸をまたぐ国際電話やラジオ放送、さらにはテレビ信号の伝送を可能にし、通信技術の発展に大きく貢献しました。また、実用的な通信手段としての役割だけでなく、その巨大な表面積に対して質量が非常に小さいという特性から、宇宙科学の分野でも重要なデータをもたらしました。具体的には、軌道のわずかな変化を観測することで、当時の衛星高度における希薄な大気の密度や、太陽光の放射圧といった要因を計算することができました。

さらに、エコー1号は可視光に対しても高い反射率を持ち、その大きなサイズと比較的高い軌道のために、地上から肉眼で見える機会が多くありました。日没後や日の出前の薄明時に、地上には太陽光が当たっていないが衛星には当たっているという条件下で、明るい光点として多くの人々によって観測されました。このため、人工天体としては最も多くの人が目にした一つと考えられています。プロジェクト関係者からは、衛星を意味する「サテライト（satellite）」と風船を意味する「バルーン（balloon）」を組み合わせた「サテルーン（satelloon）」という愛称でも呼ばれていました。エコー1号は、運用を終えた後、1968年5月24日に大気圏に再突入し、燃え尽きました。

続くエコー2号は、1964年1月25日にソー・アジェナロケットで打ち上げられました。エコー1号よりもさらに大きな直径135フィート（約41メートル）の気球で、やはり金属薄膜で覆われたPETフィルム製でした。形状と表面の滑らかさを維持するための改良されたインフレーションシステムを備えていました。エコー2号は、受動通信のさらなる実験に加え、大型宇宙構造物の力学的な挙動の研究や、地球の正確な形状を測定するための測地学の研究にも利用されました。この測地学目的の衛星としては、後に日本が打ち上げた「あじさい」（1986年～）のような類似の衛星が登場しています。

エコー衛星計画の経験を経て、NASAは中継機を備えた能動的な通信衛星の開発・運用に重点を移し、受動型通信衛星のプロジェクトはエコー計画をもって終了しました。しかし、エコー衛星は通信技術の黎明期において重要な一歩を記しただけでなく、科学や測地学の分野にも貢献しました。特に、軍事的な側面では、エコー衛星を基準天体として用いることで、ソビエト連邦の首都モスクワを含む重要地点の正確な位置を測定する精度が向上し、アメリカ軍の大陸間弾道ミサイル（ICBM）の目標設定に寄与したとも言われています。

エコー衛星は、SCOREやCourier 1Bといった初期の通信衛星、あるいはテルスター衛星のような能動型衛星へと続く流れの中に位置づけられる、歴史的に重要なプロジェクトでした。その巨大な姿と明るさは、宇宙時代の幕開けを象徴する存在として、多くの人々の記憶に残っています。

もう一度検索