オオタニワタリ

オオタニワタリ（大谷渡）

オオタニワタリ（学名：Asplenium antiquum）は、チャセンシダ科チャセンシダ属に分類されるシダ[[植物]]です。日本では本州南部以南から台湾にかけての暖地に分布し、森林内の樹木や岩などに着生して生育します。別名としてタニワタリとも呼ばれます。

名称の由来

和名「オオタニワタリ」は、谷間の湿った場所で樹木や岩に着生する様子が、シダが谷を渡っているように見えることから名付けられました。中国語では「大鱗巢蕨（山蘇花）」、韓国語では「파초일엽」と表記されます。

分布

オオタニワタリは、日本では伊豆諸島、紀伊半島、九州南部・西部、南西諸島に分布しています。台湾などの暖地にも生育しています。

特徴

生育環境

オオタニワタリは着生植物であり、熱帯や亜[[熱帯]]では樹木の幹や枝に付着して成長します。日本では、より寒冷な地域では岩の上や地上で生育することが多くなります。

形態

茎: 短く直立し、側面から多数の根が出て、黒褐色のスポンジ状の塊を形成します。
葉: 茎の先端に放射状に密集し、斜め上に伸びるため、全体としてお猪口のような形状になります。葉は単葉で細長く、先端が尖った広線形をしており、切れ込みはありません。主軸はしっかりとしていて褐色で、基部には鱗片が密生した短い葉柄があります。
胞子嚢群: 葉の裏面に多数の直線状の胞子嚢群が、葉の先端から中程まで、葉の幅の3分の2から4分の3以上にわたって並びます。多くは、一つおきの葉脈ごとに、主軸から斜め上方向に平行に並んでいます。

生態

オオタニワタリの葉がお猪口型になるのは、落ち葉を集めて腐葉土とし、自らの栄養とするための適応と考えられています。根は腐葉土を保持し、株の成長とともに根塊の一部となります。この根塊は、他の植物や昆虫が生息する場ともなります。

絶滅危惧種としての現状

オオタニワタリは、生育地の減少や小笠原諸島'>[園芸]]目的の採集などにより、個体数が減少しています。環境省レッドリストでは、近縁種のシマオオタニワタリと共に絶滅危惧IB類 (EN) に指定されています。また、各県のレッドデータブックでは、高知県、徳島県で「野生絶滅」、東京都]、[[三重県、和歌山県、宮崎県、熊本県、長崎県、福岡県において「絶滅危惧I類」、鹿児島県、沖縄県で「絶滅危惧II類」に指定されています。

三重県・紀北町の生育地

三重県紀北町の大島は、オオタニワタリの最北の分布地です。島全体が暖地性の原生林であり、国指定の天然記念物に指定されています。三重県では、オオタニワタリを「三重県指定希少野生動植物種」として保護しています。

和歌山県・稲積島暖地性植物群落

和歌山県すさみ町沖の稲積島は、かつてオオタニワタリの北限でしたが、現在は絶滅しており、人工的な補植活動が行われています。

長崎県

長崎県の離島には、オオタニワタリが生育する暖地性の植物群落が残っており、権現山原生林や男女群島などが天然記念物に指定されています。

南西諸島

南西諸島では、近縁種のシマオオタニワタリやヤエヤマオオタニワタリが多く、オオタニワタリの生育は極めて少ない状況です。

近縁種

日本には、オオタニワタリの他に、以下の近縁種が分布しています。

シマオオタニワタリ (A. nidus L.): オオタニワタリに似ていますが、胞子嚢群が中肋から葉の縁までの中ほどにしか達しない点で区別できます。沖縄本島、奄美群島、台湾、東南アジアに分布します。
リュウキュウトリノスシダ (A. austrasicum (J. Sm.) Hook.): かつて琉球列島にも生育するとされていましたが、現在ではヤエヤマオオタニワタリに分類されています。台湾、東南アジア、オーストラリアに分布します。
ヤエヤマオオタニワタリ(A. setoi): 先島諸島に多く、林床や林内の木の幹に着生しており、繁殖力が強く、人家の庭にも多く植えられています。新芽は食用とされます。
コタニワタリ (A. scolopendrium L.): 葉柄が長く、葉身の基部がハート形になる小型種で、温帯に分布します。
ヒメタニワタリ (A. cardiophyllum (Hance) Baker): さらに小型で、葉全体がハート形をなし、茎は横に這います。日本では、小笠原諸島と大東諸島にのみ生育します。

利用

観葉植物

オオタニワタリは、その独特の形状から観葉植物として人気があり、鉢植えなどで栽培されます。海外では「Bird's nest fern」と呼ばれて親しまれています。ただし、観賞用としての乱獲が問題となっており、自生地での個体数減少につながっています。一方で、ヤエヤマオオタニワタリは繁殖力が旺盛で、減少はあまり見られません。

食材

オオタニワタリの新芽は食用とされ、茹でると緑色が鮮やかになり、コリコリした食感が楽しめます。炒め物や煮物、天ぷらなどに利用されます。近縁種のヤエヤマオオタニワタリの新芽も、八重山諸島で食用とされます。台湾では、主にシマオオタニワタリやリュウキュウトリノスシダの新芽が「山蘇」として食用に広く栽培されています。

その他

伊豆の青ヶ島では、オオタニワタリの葉が焼酎の製造に使われています。

参考文献

岩槻邦男編『日本の野生植物 シダ』平凡社、1992年。
光田重幸『しだの図鑑』保育社、1986年。
* 土橋豊『観葉植物1000』八坂書房、1992年。

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