オオハシウミガラス

オオハシウミガラス

オオハシウミガラス（学名：Alca torda）は、チドリ目ウミスズメ科に分類される海鳥の一種です。その名の通り、特徴的な太いくちばしを持つことが識別点となります。

分布

本種は、北極海の大西洋側および北大西洋の広範囲にわたって生息しています。繁殖期には、北アメリカ大陸ではメイン州より北、ヨーロッパ大陸ではロシア西部からフランス北部にかけての沿岸部に営巣地を形成します。繁殖期以外は主に外洋で生活しますが、冬期には北アメリカのニューイングランド沿岸や、比較的温暖な地中海西部などでその姿を見かけることもあります。

形態

オオハシウミガラスの成鳥は、全長がおよそ40センチメートル、翼を広げた際の幅（翼開長）は約65センチメートルです。体の下面は白い羽毛、頭部から背中にかけては黒い羽毛に覆われています。大きさや全体的な外見は、同じウミスズメ科のウミガラスとよく似ていますが、オオハシウミガラスはより太く頑丈なくちばしを持つことで容易に見分けられます。また、くちばしの根元、具体的には鼻孔のあたりから目にかけて、白い細い線が入っているのも特徴の一つです。さらに、くちばしの側面には数本の横方向の溝と、白い帯状の模様が見られます。この独特の形状のくちばしは、大きさに違いはあるものの、残念ながら絶滅してしまったオオウミガラスのそれに似ていることが知られています。

分類

分類学上、オオハシウミガラスはオオハシウミガラス属（Alca Linnaeus, 1758）の唯一の現生種とされています。しかし、かつて存在したオオウミガラスを本属に含めるべきだという分類上の見解も存在します。

生態

オオハシウミガラスは、他の多くのウミスズメ科の鳥類と同様に、優れた潜水能力を利用して水中で餌を探します。主な獲物はイカナゴ、ニシン、カラフトシシャモといった小魚類ですが、甲殻類や貝類なども捕食することがあります。

繁殖期には、海に面した島嶼や沿岸部の断崖に集まり、大規模な繁殖地であるコロニーを形成します。巣として特定の構造物を作ることはなく、岩棚や地面に直接卵を一つ産み付けます。アイスランド西部のウェストフィヨルド地方の西端に位置するラゥトラビャルグは、世界でも有数のオオハシウミガラスの営巣地として特に知られています。この広大な断崖の上部付近には、推定で15万羽から30万羽ものオオハシウミガラスが集結すると言われています。また、この場所にはオオハシウミガラスだけでなく、ウミガラスやハシブトウミガラスといった他のウミスズメ科の鳥類も多数営巣しており、一大繁殖地となっています。

進化と起源

現在、オオハシウミガラス属（Alca）に属する種はオオハシウミガラス一種のみですが、化石記録の研究からは、鮮新世（約533万年前から258万年前）には本属内に複数の種が存在していたことが明らかになっています。この属の起源は、現在の北米大陸東岸北部からカリブ海にかけての北大西洋西岸地域に求められると考えられています。さらに、本属の祖先は、中新世（約2303万年前から533万年前）において、当時はまだ海峡として開通していたパナマ地峡を通って太平洋から大西洋へと分布を広げたとする説が有力視されています。

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