カラハン朝

カラハン朝：中央アジアを支配したテュルク系イスラーム王朝

カラハン朝は、10世紀から12世紀にかけて中央アジアに存在したイスラーム王朝です。テュルク系遊牧民がイスラーム化し、独自の文化と政治体制を築き上げ、中央アジアの歴史に大きな足跡を残しました。本稿では、カラハン朝の興亡、政治・社会構造、文化、宗教などについて詳細に解説します。

カラハン朝の起源と勃興

カラハン朝の起源は明確ではありませんが、840年のウイグル国家崩壊後に台頭した、複数のテュルク系部族の連合体とする説が有力です。 ウイグル崩壊後の混乱の中で、カルルク族などの諸部族がセミレチエ地方へ移動、その中で勢力を拡大していったと考えられています。 創始者については諸説ありますが、カルルク族の指導者キュル・ビルゲとその子孫であるサトゥク・ボグラ・ハンが重要な役割を果たしたと考えられています。サトゥクはイスラームに改宗し、これがカラハン朝のイスラーム王朝としての出発点となりました。それ以前のカラハン朝の歴史は、伝承や史実の取捨選択が研究者によって異なるため、明確な記述は困難です。

イスラーム化と領土拡大

サトゥクのイスラーム改宗は、カラハン朝における重要な転換点でした。彼は聖戦（ジハード）を掲げ、仏教徒など異教徒勢力への攻撃を繰り返しました。特に、サーマーン朝を滅ぼしマー・ワラー・アンナフルを支配下に置いたことは、カラハン朝の勢力拡大における大きな成功例と言えるでしょう。この征服によって、テュルク系民族がイラン系民族が中心であったマー・ワラー・アンナフルを支配する時代が開かれ、同地域の文化や歴史に大きな影響を与えました。 于闐（ホータン）などの仏教諸国への征服も進められ、中央アジアにおけるイスラーム勢力の拡大に貢献しました。

カラハン朝の政治体制

カラハン朝は、二つのハン（大ハンと小ハン）が東西を統治するという独特の二元的な支配体制を敷いていました。これは遊牧民族の伝統的な統治様式を反映していると考えられます。大ハンは通常東部のカシュガルを、小ハンは西部のベラサグンを拠点にしていました。しかし、この二元体制は、内部抗争や分裂の原因ともなりました。また、カラハン朝は、ハンに対するテュルク的な権威観念に加え、ペルシア的な王権観念や中国皇帝の称号である「タブガチ・ハン」なども用いていました。

社会と経済

カラハン朝の社会は、遊牧民と農民、商人、職人などが構成していました。農業では灌漑技術が発達し、ブドウ栽培が盛んでありました。また、キャラバン交易が盛んで、政府は独自の貨幣を鋳造していました。貨幣に刻まれた銘文は、カラハン朝の歴史を知る上で貴重な資料となっています。都市部では、マートゥリーディー派のウラマー（イスラーム法学者）が政治的にも重要な役割を果たしていました。

宗教

カラハン朝の初期には仏教、マニ教、キリスト教などが信仰されていましたが、サトゥク以降はイスラームが国教となり、強制的な改宗政策も進められました。この政策は、国内の異教徒の反発を招き、周辺の仏教諸国との紛争にも繋がりました。しかし、イスラームは徐々に社会に浸透していき、中央アジアのイスラーム化に大きな影響を与えました。

文化

カラハン朝は、テュルク語をアラビア文字で表記した文学作品を生み出しました。代表的な作品として、『クタドゥグ・ビリグ』（教訓書）や『トルコ語集成』（辞典）などが挙げられます。これらの作品は、テュルク文化とイスラーム文化の融合を示す重要なものです。また、カラハン朝は多くのモスクやミナレットなどの建築物を建設しました。これらの建物は、現在でも中央アジアに残っており、カラハン朝の繁栄を示す貴重な遺産となっています。

分裂と滅亡

11世紀半ば以降、カラハン朝は東西に分裂し、互いに争うようになりました。その後、セルジューク朝、カラ・キタイなどの勢力に次第に圧迫され、最終的にはホラズム・シャー朝によって滅ぼされました。しかし、カラハン朝は中央アジアにおけるテュルク系イスラーム文化の確立に大きく貢献し、その歴史と文化は、後の時代の中央アジア社会に大きな影響を与え続けました。

結論

カラハン朝は、中央アジアの歴史において重要な役割を果たしたテュルク系イスラーム王朝でした。遊牧民族の伝統とイスラーム文化を融合させ、独自の政治体制と文化を築き上げ、中央アジアのイスラーム化とテュルク化に大きな影響を与えました。その興亡の歴史は、中央アジアにおける民族や文化の変遷を理解する上で重要な鍵となるでしょう。

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