ガーイクワード家

ガーイクワード家（Gaikwad）は、18世紀初頭から20世紀半ばまで、西インドのグジャラート地方を支配したマラーター同盟の有力な諸侯（サルダール）です。その歴史は、マラーター王国の武将であったピラージー・ラーオ・ガーイクワードが、1720年代にグジャラート地方への遠征を開始したことに始まります。1801年以降はヴァドーダラー（バローダ）藩王国として知られるようになり、首都はヴァドーダラーに置かれました。

名称

ガーイクワード家は、その名称にいくつかのバリエーションがあります。ガエクワード、ガーイクワール、ガエクワールなどと表記されることもあります。マラーティー語の本来の読みではガーイクヴァード（Gāyakavāḍa）となります。

歴史

成立

ガーイクワード家の始祖であるピラージー・ラーオ・ガーイクワードは、もともとマラーター王国の武将の一人でした。1720年代、宰相バージー・ラーオの命により、グジャラート地方への遠征を開始し、チャウタとサルデーシュムキーを徴収しました。1726年にはソーンガドに拠点を築きます。

1730年、マラーター王国の軍総司令官トリンバク・ラーオ・ダーバーデーがグジャラートを自己の版図と見なし、ニザーム王国の援助のもと反乱を起こしました。これに対し、バージー・ラーオは反乱鎮圧に向かい、ピラージー・ラーオも協力。1731年 4月、ダバイーの戦いでトリンバク・ラーオを打ち破り、グジャラートの支配を認められたマラーター諸侯としてのガーイクワード家が誕生しました。

ヴァドーダラー遷都と第三次パーニーパトの戦い

ピラージー・ラーオは領土拡大を目指していましたが、1732年 5月、ムガル帝国の武将アバイ・シングとの戦いで戦死しました。後を継いだ息子のダマージー・ラーオ・ガーイクワードは、1734年にヴァドーダラーのムガル帝国軍を追い払い、この地を拠点としました。ダマージー・ラーオはその後も領土を拡大し、1757年にはマラーター王国宰相バーラージー・バージー・ラーオとともに帝国の州都アフマダーバードを陥落させました。

しかし、アフガニスタンのドゥッラーニー朝の侵入が始まり、1761年 1月14日のパーニーパトの戦いで、マラーター同盟軍は大敗北を喫しました。ダマージー・ラーオは辛くも逃げ延びましたが、この戦いはマラーター勢力に大きな打撃を与えました。

マラーター戦争と保護国化

ダマージー・ラーオの死後、サヤージー・ラーオ・ガーイクワードが当主位を継承しましたが、実権を握ったのは弟のファテー・シング・ラーオ・ガーイクワードでした。1780年、ガーイクワード家はイギリスと攻守同盟を結び、第一次マラーター戦争には関与しませんでした。その後、ゴーヴィンド・ラーオ・ガーイクワードが当主となりました。

1802年、ゴーヴィンド・ラーオの息子アーナンド・ラーオ・ガーイクワードの治世に、カンベイ条約を締結し、イギリスの軍事保護下に入りました。これにより、ガーイクワード家はイギリス従属の藩王国（ヴァドーダラー藩王国）となりました。その後、第二次マラーター戦争では中立を保ちましたが、1814年にはアフマダーバードを巡り、マラーター宰相府との間で争いが起こります。1815年には、ガーイクワード家の使節が暗殺され、第三次マラーター戦争が勃発しましたが、この戦争でもガーイクワード家は中立を保ちました。1818年、マラーター同盟が解体する中、ガーイクワード家はヴァドーダラー藩王国として存続しました。

イギリス統治下のガーイクワード家

第三次マラーター戦争終結後、アーナンド・ラーオの弟サヤージー・ラーオ・ガーイクワード2世が藩王位を継承します。その後、三人の息子が相次いで藩王となりましたが、1875年にマルハール・ラーオ・ガーイクワードがイギリスの駐在官毒殺未遂事件で廃位され、その養子としてサヤージー・ラーオ・ガーイクワード3世が藩王に迎えられました。

サヤージー・ラーオ3世は、近代的な思考を持つ名君として知られ、不可触民制の問題に疑問を持ち、ダリットのビーム・ラーオ・アンベードカルを雇用しました。彼は、ほぼ同時期にマイソール藩王国を統治していたクリシュナ・ラージャ4世とともに、近代化を推進しました。

1947年 8月15日、サヤージー・ラーオの孫プラタープ・シング・ラーオ・ガーイクワードの治世に、インド・パキスタン分離独立に伴い、ヴァドーダラー藩王国はインドに併合されました。

脚注

[1] 小谷汪之『世界歴史大系南アジア史2―中世・近世―』山川出版社、2007年。

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