クックロビン

クックロビン：イギリス発祥の童謡とその謎

「クックロビン」（Cock Robin）は、イギリスを中心に親しまれている、マザーグースの中でも特に有名な童謡です。日本語では「駒鳥のお葬式」や「誰が駒鳥を殺したの」といったタイトルで知られています。14の節からなる比較的長い物語詩で、ヨーロッパコマドリの死と葬儀を描写しています。

クックロビンとは？

クックロビンとは、ヨーロッパコマドリのことで、赤い胸が特徴です。かつては「ロビン・レッドブレスト」と呼ばれていましたが、それが略されて「ロビン」と呼ばれるようになりました。「コック」は雄を意味し、昔はコマドリは全て雄だと考えられていたため、「コック・ロビン」と呼ばれたのです。

詩の成立と起源

この詩の正確な起源や作者は不明です。現存する最古の記録は、1744年に出版された『トミー・サムのかわいい唄の本』に収められた4連のバージョンです。現在の14連の歌詞が初めて登場するのは、1770年の出版物です。

しかし、成立年代は18世紀よりも古く、14世紀から15世紀頃に遡る可能性を示唆する証拠があります。詩の各節の2行目と3行目は必ず韻を踏んでいますが、5行目の「owl」と「shovel」は現代英語では韻を踏みません。しかし、当時の発音では韻を踏んでいたと考えられています。また、1508年頃にイギリスの詩人ジョン・スケルトンが発表した作品『Phyllyp Sparowe』にも類似した内容が見られます。

起源に関する諸説

クックロビンの起源については、いくつかの説が存在します。

北欧神話との関連説: 傷つけられない力を持つ神バルドルが、唯一の弱点であるヤドリギで殺された神話との関連性を指摘する説があります。
ロバート・ウォルポール辞任のパロディ説: 「ロビン」が「ロバート」の略称であること、そして最古の出版物が初代イギリス首相ロバート・ウォルポールの辞任（1742年）直後であることから、彼の辞任を風刺した作品だとする説があります。しかし、詩の起源が18世紀以前である可能性も考慮すると、この説の信憑性は低下します。
ウィリアム2世暗喩説: イギリス王ウィリアム2世が狩猟中に何者かによって射殺されたという逸話との関連性を示唆する説もあります。
ロビン・フッドとの関連説: イギリスの伝説上の義賊ロビン・フッドとの関連性を示唆する説もあります。ロビンという名前と弓矢という共通点から推測されたものです。

現代文化への影響

「クックロビンの死」というモチーフは、現代文化において広く用いられています。

英語圏での例

小説: ミステリー小説や探偵小説において、殺人の題材として頻繁に用いられています。ハリントン・ヘクストの『だれがコマドリを殺したのか？』、フィリップ・マクドナルドの『鑢』、S・S・ヴァン＝ダインの『僧正殺人事件』など、多くの作品に影響を与えています。
風刺: イギリスではよく知られた歌であるため、替え歌にして風刺に用いられることもあります。
映像・音楽: ウォルト・ディズニーの『シリー・シンフォニー』シリーズにも登場しています。また、Cock Robinというイギリスのポップバンドも存在します。

日本への移入

日本では、北原白秋が1921年に初めて翻訳しました。その後、竹友藻風、平野敬一、谷川俊太郎、寺山修司、藤野紀男など多くの詩人や英文学者によって翻訳され、文学作品にも数多く引用されています。竹久夢二の『少年と春』、東野圭吾の『白馬山荘殺人事件』、萩尾望都の『ポーの一族』、魔夜峰央の『パタリロ！』、塀内真人の『フィフティーン・ラブ』、アニメ『うる星やつら』など、様々な作品でクックロビンはモチーフとして使用されています。

参考文献

イオナ・オーピー、ピーター・オーピー『The Oxford dictionary of nursery rhymes』オックスフォード大学出版局、1951年。
藤野紀男『図説 マザーグース』河出書房新社、2007年。
井田俊隆『マザーグースを遊ぶ』本の友社、2005年。
* 山口雅也『マザーグースは殺人鵞鳥』原書房、1999年。

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