クリウス氏族

クリウス氏族とは

古代ローマにおいて、クリウス氏族はプレブス（平民）に属する家系でした。その歴史が明確に確認されるのは、紀元前3世紀の初頭、特にマニウス・クリウス・デンタトゥスが登場し、目覚ましい活躍を遂げたことによって、氏族の名声が一気に高まりました。

主な個人名と家名

クリウス氏族の成員に多く見られるプラエノーメン（個人名）はマニウスですが、ガイウスやクイントゥスといった名も確認できます。紀元前1世紀のカエサル配下の将軍にウィビウス・クリウスという人物がいますが、彼がクリウス氏族出身なのか、あるいはウィビウス氏族の人間なのかは定かではありません。

この氏族に確認される家族名（コグノーメン）は、デンタトゥスただ一つです。この名はラテン語で「歯がある」を意味し、元来は特徴的な歯を持つ人物を指すあだ名であったと考えられています。特に、紀元前3世紀に活躍したマニウス・クリウス・デンタトゥスは、生まれた時点で既に歯が生えていたことからこの異名がついたという逸話が伝えられています。

著名なメンバー

クリウス氏族からは、特に紀元前3世紀以降、複数の著名な人物が歴史に名を残しています。

最も有名なのは、マニウス・クリウス・デンタトゥスです。彼は紀元前290年に執政官を務め、長期にわたるサムニウム戦争を終結に導きました。また、紀元前275年のベネウェントゥムの戦いではピュロス率いるエピロス軍を破り、ローマに大きな勝利をもたらしました。これらの輝かしい功績により、彼は三度もの凱旋式を挙行する栄誉に浴しています。さらに、紀元前274年にも執政官を再任し、紀元前272年にはケンソル（監察官）も歴任するなど、共和国中期における非常に重要な政治家・軍人でした。

彼の他に、氏族の起源に関わる人物として、紀元前290年の執政官を務めたマニウス・クリウスの祖父と父、それぞれ同名のマニウス・クリウスが存在します。

紀元前199年には、マニウス・クリウスという人物が護民官を務めました。彼は同僚のマルクス・フルウィウスと共に、後にフラミニヌスと称されるティトゥス・クィンクティウス・フラミニヌスの執政官選挙への立候補に反対しました。このため、フラミニヌスはこの年、クアエストル（財務官）に就任するに留まりました。

紀元前1世紀初頭、紀元前93年には、マニウス・クリウスという人物が相続問題を巡る裁判の当事者となりました。この訴訟は当時非常に大きな注目を集め、「クリウス事件（causa Curiana）」として知られています。クリウス側の弁護は当代随一の弁論家ルキウス・リキニウス・クラッススが務め、対する相手の弁護はローマ法の権威クイントゥス・ムキウス・スカエウォラ・アウグルが担当しました。この法廷闘争は、ローマにおける法解釈のあり方に変化をもたらす一因となったとも評されています。

また、キケロの友人であった同名のマニウス・クリウスも複数名いました。一人は紀元前61年に首都財務官、58年に護民官を務め、その後プロコンスル（前執政官）として属州総督を歴任した人物です。もう一人は、キケロが生涯の友人であり、最も親切な人物の一人として挙げた人物で、数年間パトラで商売を営んだ後、キケロの推薦によりアカエア属州総督の下で働くことになりました。さらに別のマニウス・クリウスは、遊び人との悪評がありましたが、紀元前44年にはマルクス・アントニウスによって裁判官に任命されています。

ガイウス・クリウスというエクイテス（騎士階級）出身の人物もいました。彼は元老院議員ガイウス・ラビリウスの義理の兄弟であり、ラティフンディウム（大規模農場）経営で多大な収益を上げていました。その富を活かし、非常に寛大で慈悲深い人生を送ったと伝えられています。一度公的な資金の使い込みで告訴されましたが、彼の無実が証明されています。

また、ガイウス・クリウスは、後にガイウス・ラビリウス・ポストゥムスとして知られる人物です。彼は前述のガイウス・ラビリウスの甥で、その養子となりました。元老院議員から告訴されましたが、キケロが弁護を担当し、無罪を勝ち取りました。

元老院議員クイントゥス・クリウスは、クアエストルを務めた後、紀元前64年の執政官選挙に立候補しました。しかし、才能に乏しく、遊び人としての悪評があったため落選し、元老院の議席も失いました。彼はルキウス・セルギウス・カティリナの友人で、その陰謀にも加担していましたが、愛人のフルウィアにうっかり計画を漏らしてしまい、その情報がキケロのもとに伝えられることとなりました。彼のその後の運命、特に処刑されたかどうかは不明です。

紀元前1世紀には、ビテュニア属州において、グナエウス・ドミティウス・アヘノバルブスを裏切ろうとして処刑されたクリウスという人物がいます。この人物は、カティリナの陰謀に関与したクイントゥス・クリウスと同一人物である可能性が指摘されています。

カエサル配下の将軍であったウィビウス・クリウスは、ポンペイウスとの内戦において、イタリア半島で騎兵隊を率いました。彼の活躍により、ポンペイウス側の複数の将軍がカエサル側に寝返ったと記録されています。

後世では、3世紀に『ローマ皇帝群像』において、マクシミヌス・トラクス帝やバルビヌス帝の治世に登場するクリウス・フォルトゥナティアヌスという人物や、5世紀中頃に活躍した弁護士で、ギリシャ・ラテン文学のレトリック技術に関する概論を三冊著したクリウス・フォルトゥナティアヌスがいます。この弁護士の著作はかつて簡潔かつ包括的なものとして高く評価され、歴史家カッシオドルスからも引用されました。

これらの記録から、クリウス氏族はローマ共和国中期から後期にかけて、軍事、政治、法律など様々な分野で活躍するメンバーを輩出した家系であったことが分かります。

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