グナエウス・ポンペイウス・ストラボ

グナエウス・ポンペイウス・ストラボ：共和政ローマ末期の軍人政治家

グナエウス・ポンペイウス・ストラボ（生年不詳 - 紀元前87年）は、共和政ローマの政務官であり、紀元前89年には執政官を務めた人物です。第一次三頭政治の一角を担ったグナエウス・ポンペイウス・マグヌスの父としても知られています。彼は、ピケヌム（現在のマルケ州）の諸都市との友好関係を築き、同盟市戦争において重要な役割を果たしました。

生い立ちと出自

ポンペイウス氏族は、紀元前141年にクィントゥス・ポンペイウスが初めて執政官に選出されたことで知られるようになりました。ストラボは、セクストゥスとルキリアの子として生まれました。

政務官としての経歴

ストラボは、クルスス・ホノルム（名誉の階段）を歩み、クァエストル（財務官）を経て、紀元前92年までにプラエトル（法務官）を務めたと考えられています。

クァエストル時代

紀元前104年頃、クァエストルに就任したストラボは、サルディニア担当のプロプラエトル（前法務官）、ティトゥス・アルブキウスを不正行為で訴追しようとしました。しかし、サルディニアの住民はガイウス・ユリウス・カエサル・ストラボを訴追人に選びました。この背景には、当時の法制度における訴追人の選出方法と、それに伴う様々な駆け引きがあったと考えられています。

同盟市戦争での活躍

紀元前90年、ストラボは執政官プブリウス・ルティリウス・ルプスのレガトゥス（副官）として、同盟市戦争に参加し、フィルムム、アスクルム攻囲戦で重要な役割を果たしました。

紀元前89年には執政官に選出され、同盟市戦争の北部戦線を担当しました。アスクルムを包囲し、陥落させた他、同僚執政官ルキウス・ポルキウス・カトの死後には、イタリア中部のマルシ人らと戦い、アスクルムでの勝利によって凱旋式を挙行しました。また、ポー川以北の人々にラテン市民権を付与し、ラエティ族に破壊されていたコムムに再植民を行いました。この年、息子ポンペイウスも部下として従軍していたと考えられています。

紀元前88年、プロコンスル（前執政官）としてウェスティニ人、パエリグニ人を降伏させ、アブルッツォ州の残存勢力も掃討しました。歴史家のテオドール・モムゼンは、ストラボの指揮を同盟市戦争における大きな貢献と評価しています。

スッラとキンナの内戦、そして死

紀元前88年、ルキウス・コルネリウス・スッラがミトリダテス6世に対する指揮権を巡ってローマに進軍し、政情が不安定化します。スッラが第一次ミトリダテス戦争に出征した後、紀元前87年には執政官ルキウス・コルネリウス・キンナとグナエウス・オクタウィウスの間で争いが勃発し、キンナはマリウスを呼び戻してローマを占拠しました。

ストラボは、この内戦において中立的な立場を取ろうとしましたが、最終的にはオクタウィウス側に立ち、キンナ軍と対峙しました。しかし、陣営が雷雨に襲われ、落雷によって死亡したとも、戦後の疫病によって死亡したとも伝えられています。リキニアヌスによれば、ストラボはキンナと共謀していたものの、軍団内に疫病が蔓延し、自身も病に倒れた上で落雷に見舞われ、3日後に死亡したとされています。

ストラボの死後、息子ポンペイウスは父の築いた地盤を引き継ぎ、しばらくの間キンナ派に属していたと考えられています。

人物像

プルタルコスによれば、ストラボはローマで最も憎まれた人物の一人であり、人々はその好戦的な性格を恐れていました。彼の死後、人々は遺体を棺から出して復讐したと伝えられています。また、同時代のプブリウス・ルティリウス・ルフスも、著書の中で彼を非道な人物として描いていました。ウェッレイウス・パテルクルスも、市民がストラボの死体に憎しみをぶつけたと伝えています。ストラボは裕福でありながらも非常に嫌われていた人物であり、その利己的な性格が災いしたと考えられています。

紀元前86年、ストラボがアスクルムでの戦利品を横領したとして、息子ポンペイウスが訴追されましたが、弁護士たちの尽力により無罪となりました。キンナがスッラに対抗するためにポンペイウスの持つピケヌムでの人脈を利用しようとしたという説もあります。ポンペイウスは紀元前83年にスッラが帰国した際、父と縁の深いピケヌムで私兵を召集し、スッラを支援しました。

ストラボは、その軍事的な才能と政治的な手腕によって、共和政ローマ末期の激動の時代を生き抜いた人物であり、息子ポンペイウスの台頭を支える基盤を築いたと言えるでしょう。

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