グリーゼ581d

概要

グリーゼ581d（Gliese 581d, Gl 581d）は、地球から約20光年離れたてんびん座の方向にある赤色矮星グリーゼ581を周回する系外惑星です。太陽系における惑星のように、この星系の中で4番目または5番目の惑星として位置づけられています。地球の約8倍の質量を持つ巨大な地球型惑星、いわゆるスーパーアースに分類され、公転周期は約67日です。その軌道が恒星のハビタブルゾーン内にある可能性が指摘されており、地球外生命探査の重要なターゲットの一つと考えられています。しかし、現在の観測技術ではその詳細を直接捉えることは難しく、また、現在の探査機で到達するには極めて長い時間を要します。

発見

この惑星の発見は2007年にさかのぼります。ジュネーブ天文台のステファン・ユドリー氏率いるチームが、チリのラ・シヤ天文台にあるヨーロッパ南天天文台（ESO）の3.6m望遠鏡と高性能な視線速度測定装置HARPSを使用して行いました。彼らは、惑星の重力が主星に及ぼすわずかな揺れをドップラー効果として検出する視線速度法（ドップラー分光法）を用いて、グリーゼ581dの質量を地球質量の8.2倍と推定しました。発見当初、同じ星系のグリーゼ581cがハビタブルゾーン内にあると考えられていましたが、その後の研究でグリーゼ581dの軌道がハビタブルゾーンに近いことが示唆されました。

存在性に関する論争

グリーゼ581dの存在自体も、研究者の間で議論の対象となりました。2012年には、一部の研究がその存在を示す証拠が弱いと指摘しましたが、アメリカ海軍天文台は存在可能性が高いとする見解を発表しました。特に2014年の研究では、観測された信号が惑星によるものではなく、主星の自転に起因する活動現象によるノイズである可能性が指摘され、その存在に疑問が投げかけられました。しかし、翌2015年には、2014年の研究手法の妥当性に異議を唱え、グリーゼ581dの存在を再確認したとする分析結果が発表されました。最終的には、2007年の発見時の研究に基づき、ハビタブルゾーン内に位置する系外惑星として初めて検出された天体の一つとみなされています。

軌道の特徴

グリーゼ581dは主星グリーゼ581から平均して約0.22天文単位（au）の距離を公転しており、これは太陽と地球の距離の約5分の1に相当します。軌道が完全に円形なのか、あるいは水星のようにやや楕円形なのかは、観測データが不十分なため確定していません。これらの可能性は、星系に存在する惑星の数（4つまたは6つ）に関する異なるモデルに基づいています。もし軌道が特定の条件下であれば、グリーゼ581dは主星との間に2:1の軌道共鳴を起こす可能性があり、その場合、1日の長さは地球の約67日分に相当すると考えられています。発見当初、軌道はハビタブルゾーンの外側にあると考えられていましたが、2009年後半に軌道要素の推定が修正され、より主星に近い、周期約66.87日の軌道であることが示されました。この修正により、グリーゼ581dはハビタブルゾーン内にあると結論づけられ、さらにデータからは表面に少なくとも一つの海が存在する可能性も示唆されました。

物理的特徴

主星の運動から推定されるグリーゼ581dの最小質量は地球質量の5.6倍です。しかし、もしこの惑星系が共面であると仮定した場合、質量が最小質量の1.6倍から2倍になると不安定になるという力学シミュレーションの結果があります。この最小質量に基づくと、グリーゼ581dの質量の上限は地球質量の13.8倍と見積もられています。現時点では、この惑星がどのような物質で構成されているのかは分かっていません。

気候と居住可能性

グリーゼ581dは地球と主星の間を通過する（トランジットする）現象が確認されていないため、その大気の正確な状況は不明です。したがって、その気候や居住可能性に関する議論は、主に軌道情報やコンピューターモデルによる理論的な推測に基づいています。当初、ハビタブルゾーンの外縁に位置するため、液体の水が存在するには寒すぎると考えられていました。しかし、2009年の軌道修正を受け、2011年にフランスの研究者によって行われたシミュレーションでは、もし十分な大気圧があれば、表面に液体の水が存在しうる温度条件を満たすことが示されました。発見者のステファン・ユドリー氏も、グリーゼ581dを「大きく、深い海に覆われた海洋惑星の有力候補かもしれない」と述べています。グリーゼ581dが主星から受ける光の強さは、地球が太陽から受ける光の平均約30%に過ぎず、これは火星が太陽から受ける光の約40%よりも少ない値です。この事実だけを考慮すると、人間が生存するには寒すぎると考えられます。しかし、惑星に十分な温室効果ガスが存在すれば、その表面温度は大幅に上昇する可能性があります。例えば、地球も温室効果ガスがなければ平均気温は氷点下ですが、適切な温室効果があれば、グリーゼ581dでも液体の水が存在しうる温度を保ち、理論的には生命を維持する環境となり得ると考えられています。一方で、潮汐加熱の可能性が低いことから、活発なプレートテクトニクスは期待できないとする計算もあります。また、質量が大きいことから岩石惑星の可能性が高いですが、元々は凍った惑星が主星に近づいて現在の軌道になった可能性も指摘されています。平衡温度は181K（約-92℃）と推定されています。さらに、主星グリーゼ581が変光星であることも、居住環境としては不安定な要素となる可能性が示唆されています。

その他の取り組み

グリーゼ581dへの関心は学術的なものにとどまりません。2009年には、オーストラリアで開催された「National Science Week」の一環として、科学雑誌『Cosmos』が「Hello from Earth」というウェブサイトを立ち上げ、グリーゼ581dに向けたメッセージを世界中から募集しました。このプロジェクトには195カ国から25,880通ものメッセージが寄せられ、同年8月28日にキャンベラ深宇宙通信施設の巨大な電波望遠鏡を用いて宇宙へと送信されました。

フィクション

グリーゼ581dはフィクション作品にも登場しています。例えば、イギリスのSFドラマ『ドクター・フー』のエピソード「Smile」や、ドキュメンタリーシリーズ『宇宙への扉』（Into the Universe with Stephen Hawking）のエピソード3でこの惑星が描かれています。

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