ケプラー12b

はじめに

ケプラー12bは、地球からおよそ2947光年の距離、りゅう座の方向に位置する太陽系外惑星です。この惑星は、主星であるケプラー12の周囲を公転しており、特に質量が木星の約半分であるにもかかわらず、半径は木星の約1.7倍にも達するという特異な物理的特徴を持つ「ホット・ジュピター」として注目されています。このような異常に大きな半径は「半径異常」と呼ばれ、その原因は現在も詳細な科学モデルが確立されていませんが、惑星が形成された初期段階での活動に起因する可能性が示唆されています。2011年にNASAのケプラー宇宙望遠鏡による観測で発見され、同年9月にその成果が公表されました。

発見の経緯

ケプラー12bの存在は、トランジット法と呼ばれる観測手法を用いて確認されました。これは、惑星が主星の手前を横切る際に生じる恒星のわずかな明るさの低下を捉える方法です。ケプラー宇宙望遠鏡は、惑星のトランジットを検出するために、宇宙の特定領域を継続的に監視しました。観測で捉えられた恒星の周期的な減光パターンが惑星によるものであると判断された結果、ケプラー12bの存在を示す強力な証拠が得られました。発見当初、主星はまだ「ケプラー12」という名称ではなく、KIC 11804665やKOI-20としてカタログ化されていました。

ケプラー12bの発見を確実なものとし、その特徴を詳しく調べるために、その後の追跡観測が実施されました。Kepler Follow-up Program (KFOP) の一環として、W・M・ケック天文台はケックI望遠鏡を使用し、この天体が食連星のような別の種類の変光天体ではないことを証明しました。また、WIYN天文台はスペックル・イメージング技術による観測で、この信号が偶然近くに位置する別の恒星からの影響ではないことを確認し、ケック天文台の検証結果を補強しました。2009年9月9日には、パロマー天文台のヘール望遠鏡に搭載されたPHAROカメラによる近赤外線画像を用いた観測でも、これらの証明結果が再確認されました。ケック天文台はさらに、高分散分光器HIRESを用いて主星ケプラー12の視線速度を精密に測定しました。この視線速度の変化を解析することで、惑星の存在が最終的に確定し、約1年半にわたるデータ処理と解析の結果、ケプラー12bの質量、半径、密度といった物理量が高精度で求められました。さらに、スピッツァー宇宙望遠鏡による再調査も行われ、特に巨大系外惑星の恒星面通過を観測する特定のプログラム（プログラム#60028）が実行されました。この観測では、惑星大気に「逆転層」と呼ばれる温度構造が存在するかどうかが探られましたが、仮説としては逆転層は起こっていない可能性が示唆されています。

主星「ケプラー12」

ケプラー12bが公転する主星、ケプラー12は、Kepler Input CatalogにおいてはKIC 11804465の名称で登録されています。この恒星はスペクトル型が早期のG型あるいは晩期のF型に分類され、私たちの太陽に比較的似た性質を持つと考えられています。現在の進化段階としては主系列星の終わりに近く、将来的には赤色巨星へと進化していくと予測されています。地球からの距離は約904パーセク、すなわち約2947光年に相当します。その視等級は13.4であり、肉眼で観測することはできません。

太陽と比較すると、ケプラー12はわずかに質量が大きく、金属量に富んでおり、表面温度も高い傾向があります。しかし、半径は約1.5倍と太陽よりもかなり大きな値を示しています。

惑星の特徴

ケプラー12bの最も顕著な特徴は、その質量と半径の比率です。測定された質量は木星の約0.431倍ですが、半径は約1.695倍にも及びます。質量が木星の半分程度しかないにも関わらず、直径は約1.7倍もあるため、計算される平均密度はわずか0.110から0.111 g/cm3という極めて低い値となります。これは水の密度の約10分の1に過ぎません。このような低い密度、すなわち大きな半径を持つ原因は、前述のように半径異常として天文学者の間で議論されており、惑星内部や大気に関する詳細なモデル構築が進められています。

他の系外惑星と比較されることもあり、例えば、そのエネルギー放出量が類似していることからHD 209458 bとの比較対象となることがあります。また、半径が類似していることからTrES-4とも比較されることがあります。

軌道要素を見ると、ケプラー12bの軌道長半径は約0.0556 auです。これは、地球と太陽間の平均距離のわずか約5%に相当し、主星のごく近くを公転していることを意味します。この近距離のため、公転周期は非常に短く、約4.4379637日（およそ4日半）で一周します。軌道傾斜角は約88.86度と、私たちの観測基準面に対してほぼ直交しており、これがトランジット法の観測を可能にしています。軌道離心率は0.01未満と見積もられており、ほぼ円軌道を描いていると考えられます。主星からの強い放射を受けるため、惑星の平衡温度は1480 Kにも達し、木星の平衡温度よりも約5.8倍も高い非常に高温な環境にあります。

ケプラー12bは、その異例な物理的性質により、ホット・ジュピターの形成と進化に関する研究において重要なターゲットの一つとなっています。

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