コザクラインコ

コザクラインコ（小桜鸚哥）について

コザクラインコは、オウム目インコ科ボタンインコ属に分類される小型のインコです。学名をAgapornis roseicollisといい、つがい相手への強い愛情を示すことから「ラブバード」の愛称で広く知られています。比較的安価で人に慣れやすいため、ペットとして世界中で人気を博しています。主な餌は植物の種子です。

形態

体長は約15cm、体重は30〜60g程度と小型です。野生のノーマル個体は、全身が鮮やかな緑色をしています。額から胸にかけては赤色やオレンジ色、腰は明るい青色、尾羽には赤を中心に黄色や黒などの円形模様が見られます。この額の色や仲睦まじい様子から、英米では「Peach-faced Lovebird（モモイロガオラブバード）」などとも呼ばれます。品種改良により多様な色変わりが存在し、顔の色が赤くない個体も多く作出されています。ボタンインコ属の中で唯一、巣材となる木の皮などを嘴で剥ぎ取り、腰羽に挿して運ぶという独特の習性を持っています。

分布

アフリカ南西部のナミビア共和国に広がる半乾燥地域に生息しています。標高1,500m以上の乾燥した高地を好みますが、近くに水場があることが生息の条件となります。隣国アンゴラ共和国には、亜種のアカコザクラインコ（Agapornis roseicollis catumbella）が生息しています。

特徴

非常に活発で好奇心旺盛な性格を持ち、床を歩き回ったり、物陰にもぐり込んだり、与えられたおもちゃで熱心に遊んだりします。野生環境では巣穴で就寝することが多いため、飼育下でも止まり木ではなくケージの底などで寝る個体も珍しくありません。物怖じしない大胆さがあり、時には自分より大きな相手にも威嚇する姿が見られます。パートナーに対しては非常に強い絆を結び、手乗りの個体は飼い主に対しても同様に深い愛情を示し、べったりと寄り添う傾向があります。

性別判断

外見からオスとメスを見分けるのは非常に困難です。オスの頭頂部が丸く、メスがやや平坦、メスの方が下嘴の横幅が広いといった目安が挙げられることもありますが、個体差が大きいため決定的な判断基準にはなりません。巣材を腰に挿して運ぶ習性についても、文献ではメス特有とされることが多いものの、実際にはオスも行うことが確認されています。また、人の手に反応してメスが交尾姿勢を取ることがありますが、オスでも同様の行動を示すことがあります。オスの性的な行動として、お気に入りの物や飼い主の手足に下半身を擦り付ける自慰行為が見られる場合があり、射精に至ることもあります。変色種の中には、両親の遺伝情報から性別をある程度予測できるケースもあります。

飼育

コザクラインコは小型で比較的入手しやすいため、手乗りのペットとして高い人気を誇ります。特に一羽飼いの場合、飼い主に対して強い愛情を向け、非常に馴れやすくなります。平均的な寿命は10〜15年ですが、栄養バランスの取れた食事や十分な運動といった飼育環境、そして飼い主のケアによって大きく変動し、20年以上生きる長寿の個体も存在します。飼育下での繁殖（巣引き）は、パートナーとの相性が良ければ比較的容易に行えますが、相性が悪いと攻撃し合うこともあるため、特に成鳥同士をペアにする際は注意が必要です。巣箱には市販の木製箱型巣箱を利用できますが、繁殖を望まない場合は発情を促す巣箱などを設置しない方が良いでしょう。ヒナの時期は嘴が全体的に黒っぽいですが、成長と共に黒みが消え、黄色がかった肌色になります。ヒナから人工的に給餌（粟玉など）して育てると、飼い主に非常によく懐きます。ヒナの適温は30度前後と高めですが、1ヶ月ほどで自分で餌を食べられるようになります。

鳴き声は声量が大きく甲高いため、集合住宅などでは近隣への配慮が必要です。オウムのような突発的な大声はあまり出しませんが、その声質ゆえに響きやすい傾向があります。人間の言葉を真似ることはあまり得意ではありませんが、不明瞭ながら話す個体もいます。他の種類の鳥と一緒に育った場合は、その鳥の鳴き声を真似るなど、鳴き声は環境によって変化します。

噛む力は体の小ささに反して非常に強く、強く噛まれると容易に出血することがあります。縄張り意識が強い個体の場合、その領域に手を入れると攻撃される可能性があるので注意が必要です。嘴の先端が尖っていると甘噛みでも痛く感じることがありますが、獣医で先端をカットしてもらうことも可能です（嘴には血管が通っているため専門知識が必要です）。壁紙や家具などを齧る習性があり、放鳥時には部屋のあちこちを齧られないように注意が必要です。電気コードや鉛製品など、齧ったり誤飲したりすると生命に関わる危険物もあるため、十分な配慮が求められます。

やや神経質な面もあり、ストレスが原因で自分の羽を抜いてしまう「毛引き症」を発症する個体が多く見られます。治療には投薬やエリザベスカラーの装着などがありますが、根本的なストレス要因を取り除くことが最も重要です。毛引き症は癖になると完治が難しくなるため、早期に獣医師に相談するなど対策が望まれます。尾羽のあたりを重点的に抜く場合は、脂粉を出す尾脂腺の炎症（尾脂腺炎）の可能性も考えられます。

糞の状態は、食餌量や種類、体調によって変化します。ケージの底を見て糞の状態を観察することは、健康状態を知る上で重要です。躾によっては特定の場所で排泄することを覚える個体もいます。鳥用オムツも存在しますが、鳥にとってストレスとなり、毛引きの原因になる可能性もあるため注意が必要です。食糞する個体もいますが、食べさせないようにしましょう。ゆで卵など食感が似たものを代わり与える方法も考えられます。

主食には、穀類を主体とした「シード」と、栄養バランスを考慮した乾燥栄養食である「ペレット」の二種類があります。栄養面ではペレットが優れており、欧米ではペレットが主流となっています。シードを主食とする場合は、栄養バランスを補うために野菜やカルシウム源などを与えることが推奨されますが、これらを好まない個体もいます。シードを与える場合は、様々な種類が配合された殻付きの混合シードが望ましいです。ビタミンやカルシウムなどのサプリメントも病気予防に有効です。米国などでは、アーモンドやゴマなど栄養価の高いものが含まれた混合餌も販売されています。乳酸菌を常用することで腸内環境を整え、下痢やメガバクテリアの予防効果も期待できます。ヨーグルトを与える場合は、砂糖や脂肪分を含まないプレーンなものに限定しましょう。

ケージ（鳥かご）は、十分な運動スペースを確保するため、四角く大きめのものが適しています。金網が横方向になっていると、インコが上り下りしやすいため好まれます。冬場は室温を20度程度に保つための保温対策が必要です。放鳥時以外に運動スペースが必要な場合は、爬虫類用のテラリウムケースなどを利用する方法もあります。

鳥類にとって有毒となる危険なものが多く存在します。アボカド、チョコレート、カカオ豆、カフェインを含む飲料（コーヒー、紅茶、コーラなど）、シュウ酸を多く含む野菜（ほうれん草など）、ネギ類、ニンニク、アブラナ科の野菜、ナス、ピーマン、鉛、テフロン加工の調理器具から出るガス、ニコチン、アルコール、人間の唾液、多くの観葉植物（ポインセチア、ベゴニア、チューリップ、スイセンなど）、バラ科植物の種子（リンゴ、モモなど）などが挙げられます。放鳥時や日常の管理において、これらの危険物を近づけないよう細心の注意が必要です。

芸を覚えさせることも可能で、指示に従ってターンしたり、小さな物を特定の場所に運んだりといった芸を習得することがあります。飲み込みの早い個体であれば、短時間で覚えることもあります。芸の得意不得意は個体差もありますが、教え方（トレーナー）に大きく左右されます。

水浴びを好む個体が多いです。強制するのではなく、鳥自身が好む方法（容器を置く、霧吹きなど）で、自発的に水浴びをさせることが大切です。頻度も個体によって異なります。必要以上に体が濡れると体温が奪われたり、羽の脂粉が過剰に取れたりして危険なため注意が必要です。冬場でも室内が暖かければ問題ありませんが、コザクラインコの羽は水を弾かない性質のため、体が冷えないように注意しましょう。水温は25度程度が適温とされます。脂粉が落ちやすくなるため、お湯の使用は推奨されません。

風切羽の一部を切る「羽切り（クリップ）」は、鳥が飛べる距離を制限する目的で行われることがありますが、賛否両論があります。事故（脱走、壁への衝突など）の予防になるというメリットがある一方で、運動不足による病気やストレスの原因になったり、危険を回避する能力が損なわれたりするというデメリットが指摘されています。

色変わり・変色種

野生のコザクラインコは、額が赤色のノーマルカラーのみでしたが、人工的な繁殖により数十種類もの多様な色変わりが生み出されています。これらは遺伝子の欠落、変化、配色変化などの組み合わせによって誕生し、バリエーションが増えるほどさらに新しい色が出現する可能性があります。色変わりは分類学上の亜種とは異なります。代表的なものには、オレンジフェイス（OF）、ホワイトフェイス（WF）、ルチノー、シーグリーン、ダッチブルー、バイオレット、シナモン、モーブ、パイドなど多種多様な品種が存在します。OFやWFは顔の色に変化が見られる品種を指し、例えばパイドはランダムに青色が抜けて黄色い斑模様が入る品種で、その模様は個体ごとに異なり換羽で変化することもあります。ダーク因子などの影響により、ノーマルグリーンがダークグリーンやオリーブに、ブルー系がコバルトやモーブに変化することもあります。

亜種・変異種

• - アカコザクラインコ（Agapornis roseicollis catumbella）: コザクラインコの亜種。
• - ヤエザクラインコ（八重桜インコ）／ヤエザクラボタンインコ: コザクラインコとボタンインコの種間雑種（ハイブリッド）です。遺伝子の関係で繁殖能力はありませんが、生殖行動や産卵は行います。
• - ジャンボコザクラインコ: longfeatherと呼ばれる品種の一つで、通常のコザクラインコより二回りほど大きく、体重が60〜80gになる個体もいます。価格が非常に高価なため、あまり普及していません。

出入国

かつてコザクラインコはワシントン条約の付属書IIに記載され、国際間の移動に輸出許可証が必要でしたが、2004年の締約国会議で付属書から除外されました。これにより、オウム目全体で付属書に記載されていないのは、コザクラインコ、オカメインコ、セキセイインコの3種となりました。日本国内での手続きは経済産業省が担当します。国によっては、入国時に数週間の検疫施設への隔離が必要となる場合があります。

日本における飼育の歴史

大正時代には文鳥やカナリヤなどの海外産小鳥が人気を集めましたが、コザクラインコのようなアフリカ産インコは比較的高級で、一部のマニアに飼われる程度でした。一般的に普及し始めたのは昭和30年代に入ってからと考えられています。昭和30年代後半に手乗りのヒナとして販売され始め、当初はノーマル種が主流でしたが、色のバリエーションが豊富なボタンインコに比べて人気はいまひとつでした。平成に入り、アメリカからオカメインコとともに多くの色変わり品種が紹介されるようになると、コザクラインコの人気も再び高まりました。現在、小鳥全体の飼育ブームは下火になっていますが、インコ類は多様な種類が飼育されており、かつて主流だった尖った嘴を持つ小鳥のペットは減少傾向にあります。

米国アリゾナ州での繁殖

アメリカ合衆国のアリゾナ州フェニックス周辺では、1990年代後半からペットとして飼われていた個体が野生化し、繁殖している様子が確認されています。これは、サボテンにギラキツツキが開けた巣穴を再利用して営巣しているためと考えられています。

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