ゴール州

ゴール州：歴史と文化が交錯するアフガニスタンの山岳地帯

ゴール州はアフガニスタンの中央部に位置し、ヒンドゥークシュ山脈の西端に広がる山岳地帯です。その歴史は古く、古代にはイラン系の山岳遊牧民が居住し、イスラム化を経てゴール人として知られるようになりました。中世にはゴール朝がこの地から勃興し、広大な領域を支配しましたが、その後モンゴル帝国の支配下に入り、多様な民族が入り混じる地域となりました。

ゴール州の歴史

古代、この地にはイラン語群を話すイラン系遊牧民が住んでおり、彼らはイスラム時代にはゴール人と呼ばれていました。イスラム帝国の支配が及ぶと、ヘラートを支配するサーサーン朝ペルシア帝国に従属していましたが、サーサーン朝の滅亡後、イスラム教に改宗しました。その後、ゴール朝を興すシャンサバーニー族の祖先がアッバース朝の時代にこの地の領主に任命されたとされています。

11世紀頃からシャンサバーニー族の土着王国が台頭し、ガズナ朝と抗争を繰り広げました。12世紀半ばにはゴール王国が独立を達成し、ギヤースッディーン・ムハンマドの時代にはホラーサーンからインド亜大陸にまで広がるゴール朝として発展しました。ギヤースッディーンはヘラートを拠点としましたが、ゴール地方にもモスクや学校が建設され、その繁栄は及びました。その時代に建てられたジャームのミナレットは、現在世界遺産として登録されています。

13世紀にはホラズム・シャー朝やモンゴル帝国の支配を受け、ゴール朝の残党はヘラートでクルト朝を立てましたが、モンゴルのイルハン朝に服属しました。この頃、モンゴル軍がこの地に駐留し、その末裔とされるモゴール人や、モンゴロイドの形質を持つハザーラ人がこの地に居住するようになりました。

その後、ティムール朝、ムガル帝国、サファヴィー朝がこの地を争奪し、パシュトゥーン人によるアフガニスタンの建国を経て、この地の主要な住民はテュルク系の出自を持つアイマーク人となっていきました。現在では、ゴール人と呼ばれる人々は知られていません。

21世紀のゴール州

2021年にはアメリカ軍の撤退に伴いターリバーンの勢力が拡大し、国際的な支援が停滞しました。これにより、ゴール州でも食料価格が高騰し、栄養失調による子供の死亡が発生しました。また、過去にはカルザイ政権による地方軍閥の武装解除の過程で、州都チャグチャラーンが軍閥による襲撃を受け、混乱が生じました。

ゴール州の地理と行政

ゴール州はヒンドゥークシュ山脈の西端に位置し、ヘルマンド川、ハリー川などの源流となる渓谷地帯と分水嶺の山脈が連なっています。西にはヘラート、東にはバーミヤーンと繋がる交通の要衝でもあります。

ゴール州には10の県があり、州都はチャグチャラーンです。チャグチャラーンはハリー川の南側に位置し、州内最大の都市です。

ゴール州の住民

ゴール州の主要な民族は、ダリー語を話す半農半牧のスンナ派のアイマーク人です。東部にはシーア派のハザーラ人が居住し、南部にはモゴール人が居住しています。また、カンダハール方面からパシュトゥーン人の遊牧民も流入しています。

文化遺産：ジャームのミナレット

ゴール朝の最盛期に築かれたジャームのミナレットは、2002年にユネスコの世界遺産に登録されました。このミナレットは世界第2の高さを持つ歴史的建造物であり、ゴールの歴史と文化を象徴する重要な遺産です。

トリビア

ラドヤード・キップリングの短編小説「王になろうとした男」は、19世紀のアメリカ人探検家ジョサイア・ハーランのゴールでの冒険譚をモデルに書かれたとされています。この小説は後に映画化もされ、ゴール地方が冒険の舞台として描かれています。

脚注

[1] 2006年の公式推計によるゴール州の人口
[2] 2006年の公式推計によるチャグチャラーンの人口