サッターズミル隕石

サッターズミル隕石：類まれなる速度と貴重な情報をもたらした隕石

2012年4月22日、アメリカ合衆国カリフォルニア州に、歴史に残る隕石が落下しました。それがサッターズミル隕石です。この隕石は、その落下速度と、早期発見・分析、そしてその科学的価値において、他の隕石とは一線を画す存在となっています。

驚異的な落下と迅速な発見

太平洋夏時間午前7時51分10秒から30秒にかけて、ネバダ州とカリフォルニア州で、昼間でも目視できるほど明るい火球が目撃されました。東から西へと流れる火球は、タホ湖周辺で大きな轟音と突風を引き起こし、人々を驚かせました。複数の観測所で超低周波音の衝撃が検出され、目撃者からは爆発音や風切り音、さらには溶接のような臭気までもが報告されています。

米国立気候データセンターのドップラー気象レーダー観測網は、火球のドップラー偏移を捉え、そのデータから隕石の飛散範囲を特定しました。その情報に基づき、落下からわずか2日後の4月24日、最初の隕石片がカリフォルニア州コロマのヘニングセン・ロータス・パークで発見されました。その後も、多くの隕石ハンターやボランティア、地元住民の協力を得て、大規模な捜索が展開され、11月27日までに90個の隕石片（総重量992.5グラム）が回収されました。

隕石片の一部は、カリフォルニア・ゴールドラッシュの震源地となったサッターズミルで発見されたことから、この隕石は「サッターズミル隕石」と名付けられました。

記録的な速度と太陽系初期の痕跡

超低周波音観測所によるデータから、サッターズミル隕石の爆発時のエネルギーはTNT換算で約4キロトンと推定されています。また、写真や動画の解析から、爆発高度は約48キロメートル、大気圏突入速度は秒速約28.6キロメートルと算出されました。この速度は、これまで回収された隕石の中でも最も速いものです。

サッターズミル隕石は、炭素質コンドライトに分類されます。特に珍しいCM（ミゲイ隕石型）のコンドライトで、太陽系初期の物質を豊富に含んでいることが分かっています。しかし、単なるCMコンドライトではなく、様々な変成度合いの砕屑物が固着したレゴリス角礫岩（ブレッチャ）である点が注目に値します。これは、異なる小惑星が衝突・破壊され、その破片が母天体上で堆積・固結したことを示唆しています。

複雑な歴史を語る構成物質

サッターズミル隕石からは、オルダム鉱（硫化カルシウム鉱物）やダイヤモンドといった、珍しい鉱物が発見されています。オルダム鉱は、非常に反応性の高い物質であり、炭素質コンドライトからの検出例はこれまでありませんでした。これは過去の天体衝突でエンスタタイト・コンドライトを取り込んだ可能性を示唆しています。

また、熱変成の痕跡も確認されています。希ガス同位体の分析からは摂氏350度以下、Fe-Ni金属の分析からは摂氏500度以上の加熱が示唆され、異なる過程を経た岩石が混ざり合っていることが分かります。赤外線顕微鏡による分析では、有機物の空間分布や鉱物の組成にばらつきがあり、異なる起源の物質が混在していることが裏付けられています。

太陽系初期の謎を解き明かす鍵

ドロマイト岩脈の分析からは、サッターズミル隕石中のドロマイトの水質変成が母天体形成初期に起きたことが示されています。マンガン・クロム年代測定では、ドロマイトの形成年代は太陽系誕生から約240万～500万年後に推定され、他のCMコンドライトの炭酸塩の年代と整合性があります。

サッターズミル隕石は、アルゴン、クリプトン、キセノンなどの希ガスの濃度が他のCMコンドライトとよく一致しており、クロム同位体の54Crは地球と比較して明らかな超過を示しています。これは、原始太陽系星雲の中で同じ前駆物質から形成された可能性を示唆しています。また、プレソーラー粒子（太陽系形成以前に存在した粒子）も発見されており、太陽系誕生以前の物質が含まれていることが確認されました。

さらに、サッターズミル隕石からは有機ナノグロビュールも検出されています。その組成は他のCMコンドライトと似ていますが、空洞が少ない点が特徴的で、母天体上で比較的変成を受けずに保存されていたと考えられます。熱水処理による分析では、複雑なアルキルカルボン酸などが検出され、地球における有機分子の進化に炭素質隕石が大きく貢献した可能性を示唆しています。

科学的意義と今後の研究

サッターズミル隕石は、落下から2日という短期間で最初の隕石片が回収され、その後も数ヶ月に渡る大規模な回収活動が行われました。迅速な対応と、科学者、ボランティア、地元住民の協力体制は、今後の隕石研究において重要なモデルケースとなります。

また、雨水に曝された試料とそうでない試料を比較することで、地球環境による試料の汚染度合いの違いが明確になり、迅速な回収の重要性が改めて示されました。

サッターズミル隕石は、はやぶさ2やOSIRIS-RExといった小惑星探査機のサンプルリターン計画において、貴重な比較対象となり、今後の研究に大きく貢献することが期待されます。現在、回収された隕石標本は、複数の研究機関で保管・分析されており、太陽系初期の謎を解き明かすための研究が精力的に続けられています。

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